最後の鷹匠 孤高の民・マタギ

マタギINDEX 孤高の民・マタギ 滅びゆくマタギ文化
山の神の恵み 森の王者・熊狩り マタギの里・阿仁町

 「わが国は、昔から農耕社会であり、
 有史以降、肉食の習慣は薄いとされている。・・・
 有史以前のわれわれの祖先は、
 狩猟と採集によって生きてきたことは間違いない。

 農耕文化が広まるにつれ、「狩猟民族」が次第に減少し、田畑だけでは食べていけない山奥にだけマタギが残りえた。
 その最後になったのが、阿仁マタギだと言えると思う。・・・

 彼らの持ついわばマタギ文化は、奇妙なほどに特殊なものだ。
 農村社会とマタギ社会とを比べると、その特殊性がはっきりしてくる。
 組織的には、農村社会のリーダーはごく最近まで裕福な地主に限られていたが、
 マタギの場合は、あくまでも実力主義だ。
 信仰の形態も山神が中心となり、農村と比較してひどく禁欲的だ。
 山岳宗教との結びつきの深さがいたるところに見られるが、
 それがなおさら神秘性を深めている。・・・

 マタギ言葉に象徴される排他性、多くのタブーに秘められた宗教性、・・・
 まだまだ、豊かな奥羽山脈の自然に囲まれての彼らの生活、
 自然界の法則から、いささかもはみ出さない古来からの伝統
 といったものに対する、われわれの憧れが重なってくる。

 取材を終えて痛感するのは、マタギにしろ鷹匠にしろ、
 伝統猟師としての習俗が、今後急速に失われるだろうということだ。
 恵まれた環境の中で育った高度な文化ではなく、
 庶民の暮らしの中から生まれた、土くさいものだけに、その実態をとらえることは難しい。
 しかし、両方ともわれわれの祖先の息吹を教えてくれる 数少ない貴重な実例なのではなかろうか。
 (「最後の狩人たち」長田雅彦著、無明舎出版、取材ノートより抜粋) 



参 考 文 献
「最後の狩人たち」長田雅彦著、無明舎出版
「マタギT〜V」矢口高雄、双葉社
「阿仁町史」阿仁町史編集委員会
「消えゆく山人の記録、マタぎ(全)」太田雄治著、翠楊社
「狩猟習俗調査報告書」秋田県文化財調査報告書、昭和39年3月
「マタギ、日本の伝統狩人探訪記」戸川幸夫著、クロスロード選書
「森吉山麓の生活誌」無明舎出版編、建設省、森吉山ダム建設事務所
「阿仁川流域の手しごと」建設省森吉山ダム建設事務所
「森吉山麓、菅江真澄の旅」建設省、森吉山ダム建設事務所
野沢博美写真集「鷹匠」発行:童牛社、発売:影書房
「聞き語り、最後の鷹匠」朝日新聞秋田支局編、無明舎出版
「熊鷹 青空の美しき狩人」藤原審爾著、文藝春秋
「ニッポン博物誌1、鷹の翁」矢口高雄、講談社
「ふるさと第1巻、第2巻」矢口高雄、中央公論社
「阿仁マタギ&阿仁町」FIELD STREAM、1993.10月号 
その他、新聞記事、各種市町村パンフレットを参照した。