独鈷大日神社 作占い

2010.07.09

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もうもうと湯気のたつ大釜がふたつ。竹に巡らせた注連縄の四隅には御幣が下がる。

熱さに顔をしかめ、大粒の汗を流しながら神主たちが藁を束ねたササラで湯をかき回す。

泡の立ち具合でその年の米の作柄を占う、大館市比内・独鈷大日神社の例大祭。

大館市比内 独鈷大日神社
本殿

独鈷(とっこ)大日神社は、大日堂舞楽で有名な鹿角市八幡平小豆沢(あずきさわ)と、

同じく八幡平長牛(なごし)にある大日堂と並ぶものとして、

523年、継体天皇の勅命によって創建されました。

この3社はいずれもダンブリ長者伝説に由来し、独鈷は夫婦の妻の生誕地とされている土地

伝説を知った継体天皇が、夫婦の遺徳を残し魂を鎮めるため、

夫婦ゆかりの地に大日霊貴神を祀れとの命を下したのが始まりと伝えられています。

本殿内浅利氏の絵  

神社のある大館市比内町独鈷には、

その昔、比内地方を統治した浅利氏が拠点とした独鈷(十狐)城址があります。

神社本殿内部に、独鈷城を築城した浅利則頼の大きな絵が飾られていました。

 

50年ほど前までは、地域の集まりや結婚式などにも利用されてきましたが、

周辺に施設が立ち並ぶと同時に、神社はその役目から離れていきました。

それでも、年に一度の例大祭や初詣など、

独鈷大日神社は氏子を中心とした地域の人々に、今日までこうして大切にされてきたのです。

 本殿内牛の絵馬

本殿に足を踏み入れ、天井を見上げると、あっと驚くような光景がありました。

牛の絵馬がたくさん飾られているのです。

この理由は、神社創建の時代までさかのぼります。

 

独鈷大日神社は少し傾斜のキツい坂を上った高台に建っています。

そのため、建設の際、材木などを運ぶ牛の多くが疲労や事故で犠牲となりました。

このたくさんの絵馬は、その牛たちに対する感謝と鎮魂の気持ちが込められているのです。

独鈷生まれの女性は、「昔は牛肉は食べなかったの。食べてはいけないって教わったのよ。」

と教えてくれました。

神事 

作占いを前に境内で神事が行われました。 

 sinji

 

sinji

 

神楽の奉納

 

神主 神成幸忠さんの次女が舞う。 

おー、という声に合わせ、参列した氏子や地元住民が頭を下げると、

神主の神成幸忠さんの手によって、本殿の奥に安置された大日如来像の扉が開かれました。

神社創建からおよそ200年後の8世紀初頭。

ダンブリ長者伝説を知った元正天皇は、僧行基に伝説ゆかりの地に行くよう命じました。

行基が独鈷を訪れた時、枕元に貴人が現れ、一本三体の大日如来像を作ることを告げられます。

行基はそのお告げを勅命として捉え、国司に大日如来像の作製を指示。

この時作られた大日如来像が県内大日堂3社に安置されたのが725年のことです。

   氏子の代表は裃を着用する伝統

隣の女性が「なかなか(扉)開かねんだよ。

正月でも開かないはず。

近くで見ると綺麗なんだ。」

耳打ちして教えてくれました。

氏子の代表たちはみな揃いの裃を着用。

ピシッとしたその姿に、

時代は変われどしきたりを守り続ける、

氏子たちの真摯な気持ちを感じました。 

献茶をふるまった女性たち お抹茶とお菓子がふるまわれた

参道では、

氏子の有志による献茶が行われました。

わたしも一服ごちそうになりました。

和菓子は「夏の夜」という小豆のお菓子。 

 直会(なおらい)と独鈷ばやし

作占いの後、隣接する建物で直会(なおらい)が行われ、子どもたちが「独鈷ばやし」を披露。

「独鈷ばやし」は、浅利則頼の時代に、則頼自ら剣を振り若い娘が舞ったとされる「剣囃子」と

イヤサカサッサーの掛け声で集落の家々を回る「囃子山車」が合わさったもの。

市の無形民俗文化財に指定されています。

 

 

氏子で、神社前責任役員の小館修さんは、

子どもたちの踊りや歌、演奏に

目を細めながらこう話してくれました。

「この神社は4集落の氏子の理解もあるし、

なんといっても、

みんなが神社を崇敬しているでしょ。

この神社も祭りも、

独鈷にとって、なくてはならないものです。」

また、小館さんの跡を継いだ

現責任役員の杉沢喜一さんは、

「ここ(独鈷)は、浅利氏の城跡とか

独鈷ばやしとか歴史的にも貴重な場所です。

時間はかかるかもしれないけど、

森や井戸をなんとか整備して

歴史探訪ができるようにしたいですね。」

地域の将来について話してくれました。 

 
伝統を守るということ

歌や踊りを終え、直会の席で大人と並んで食事をする子どもたちと並んで座りながら、

独鈷大日神社の神主 神成幸忠さんはこう話してくれました。

「無事に終わって、おかげさまでありがたいです。

平日だと、農作業の人もいるし、会社の人もいるから難しいし大変ですけどね。

今には今なりの、時代の形があると思うし、変化を伴うのもしょうがないです。

 

 

でもね、大切にするべきものは何かをきちんと考えていかなければならないと思うんです。

楽だからといって、自分たちの都合で本来の伝統の意味やしきたりまで変えてはいけない。

残すべきものは何なのか、何が伝統なのか。

これからも、きちんと意味あるものを大切にしていきたいと思います。」 

   
そして、「子供たちには、こういう経験を積んで、この伝統を忘れないで欲しいですね。

こういうのは、小さい時にやらないと興味を持たないものでしょう。 

そのために自分たち大人も、伝統を伝えるために頑張っていかなくてはと思います。」

と力強く話してくれました。

  気になる今年の作柄は-
湯釜 神主が占いの結果を話す
さて、気になる今年の作柄は・・・。

「平年並み。天候不順で作付けが

遅くなったけれど、刈り取りはいつも通り。

頑張ってください。」と神主の神成さん。 

 

「自分たちの都合で伝統を変えてはいけない。」神成さんのその言葉が印象的でした。

それが何百年と繋がってきたのには必ず意味がある。変化を時代のせいにしてはいけない。

わたしもそう思います。

神成さんの言葉には、神社に生まれ代を継いだ、自分への戒めと責任が滲んでいました。

わたしたちの周りにもあるはずです。

時が流れても変えてはいけない大事なことが。今なくしたらもう戻ってこないものが。

この時代を生きるひとりひとりが考えていかなければいけないことなのだと思います。

県北担当 やっつ

・・・・・・・取材協力・・・・・・・

独鈷大日神社 大館市比内町独鈷字大日堂前6-1

※ 独鈷ばやしは、「独鈷ばやし保存会」により、地域住民や小学校の協力をうけながら、週一回練習を重ねています。