上小阿仁村 万灯火 2010.03.21 |
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3月21日、春彼岸の中日のこの日、上小阿仁村で万灯火が行われました。 万灯火は、上小阿仁村をはじめ合川町の一部の集落など、小阿仁川流域集落の民俗行事です。先祖供養の意味合いを持つ万灯火。彼岸の日、精霊がこの火を道標にして、無事に家々にたどり着けるようにという願いが込められています。
春の訪れを待ち焦がれ、残雪の残る集落のあちこちで願いの火を灯す人々に出会いました。 |
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■世代で受け継ぐ文化
彼岸の入りとなった3月18日。上小阿仁村の各集落で、3日後に控えた万灯火に向けて準備が進んでいた。 |
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今年2月、裸参りでお世話になった沖田面集落の方々に「ぜひ万灯火も見て。」とお誘いをいただき、だったら準備段階から拝見しようとうかがった。
沖田面公民館でも、仕事を終えてから駆け付けた男性や学校帰りの子どもたちが、ござの上にあぐらをかいて輪となり、せっせと「だんぽ」作りをしている。 |
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「だんぽ」とは、古布を丸めて針がねで縛り結わいたもの。これで文字を模り灯油を浸み込ませて火をつける。燃やしても簡単に崩れないよう、力いっぱい締め付ける。
試しにひとつ作らせてもらった。確かに力仕事。
何百個も作るには男性にお願いをするに限るというもの。 見渡すと作業をするのは男性ばかりだが、特に決まっているわけではなく、力仕事だからだろう、というのが概ねの意見。 |
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昔は、集落の墓前でワラやたいまつを燃やしていたのがはじまりとされる万灯火。
今でも集落全体の行事として、「だんぽ」は集落の一軒一軒にお願いをして作ってもらっている。
一軒あたり3~4個。
軍手を丸めたものや布団の切れ端を丸めたものまでそれぞれのだんぽが集まる。
時期になると広報でお願いをするだが、 中にはそれを待たずに公民館に持ってきてくれる人もいるという。 |
万灯火はもともと子どもたちの行事で、小学生の高学年の子が低学年を従えて行うものだったそうだ。
時代が変わり、今では子どもがきちんと準備から参加することはもう珍しいという。
「自分が子どもの頃は、大人用と子ども用の万灯火があったんですよ。子どもたちが大人になってもこの万灯火を覚えててくれればいいな、と思いますね。当日は晴れればいいんだけど…。」と男性がだんぽを作る手を一旦休め話してくれた。
ほんと、晴れるといいのだけれど…。
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■雨模様の万灯火 しかし、願い届かず、万灯火当日の21日は前日の夜から風の強い荒れ模様となった。沖田面集落の村田さんに、万灯火の現場まで連れて行っていただく予定だったが、この天気で寄付金集めなど日中の作業が遅れているという。足場も悪いしご迷惑になっては困るので、同行はお断りし、時間まで村内を見学して歩くこととした。 |
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■熟練の技で村を元気に。 道の駅では、露店が出ていて賑わっていた。その一角で長年秋田杉で茅葺民家の模型を作っている男性に出会った。 畠山孝一さん。上小阿仁村特産の秋田杉の端材を使い、重厚な茅葺民家の模型や木炭入れを作っている。 |
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つい先日は、五城目町の人から「茅葺民家を取り壊すから記念に作ってくれないか。」と依頼され、幅1m弱もある大きな模型をプレゼントしたそう。手間もかかり、売れば数万円の値ではあるが、こうして寄贈することも少なくないという。「儲けじゃなくて喜んでもらいたいから。」
若いころは、大工として県内だけでなく、関東方面でも腕をふるっていたという畠山さん。現役を退いた今でも、自分の技には自信がある。「大工としての腕があるから、まさに第二の人生ですよ。」 |
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■万灯火鑑賞無料バス 雪の止む気配のないまま、村内の各所で準備は着々と進んでいく。 |
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今年、上小阿仁村では16の集落が万灯火に参加。個々の墓前で行わなくなってからも、火は、集落の墓に向かって燃やされてきた。村で一つ、ではなく、あくまでも集落単位で行うため、万灯火も16か所で燃える。 |
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そこで、村では10年ほど前から点灯を時間差にすることで、全ての万灯火を鑑賞できる無料バスの運行をしている。今回は、それに乗ってみることにした。
18時。
村生涯学習センター前出発のバスに乗り込んだ。ガイドは村商工会の入交さん。県外のご出身で、万灯火を鑑賞するのは初めてとのこと。びっしりと予習をされたメモを片手に、丁寧にガイドをしてくれた。
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村の中心集落である沖田面で300戸。
しかし、 16集落のうち20戸に満たない集落も少なくない。
大海(たいかい)は15戸、 上五丹沢はなんと10戸しかいない。 |
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35戸の堂川集落は、 最も多い1000個のだんぽを用意した。
地域の結束と消したくないという 伝統の灯に込める人々の心意気が伝わってくる。 |
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それでも過疎高齢化の進む村。
村内全18集落中16集落の参加だから、2集落はすでに人手不足で万灯火ができなくなっている。
バスからは1人でじっと万灯火を見守り続ける老人の姿を、何人も見かけた。
どんな想いでこの火を見続けていたのだろうか。 |
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万灯火は、先祖が迷わず家に帰って来れますように、という願いの火。
古布でせっせとだんぽを作る人、寄付金を集めに雨の中家々を歩き回る人、凍える手で組み立てる人、火を灯す人、そしてそれを見守る大勢の人々-。
先祖代々と言われてもピンとこないが、かわいがってくれた祖父母や育ててくれた父親、母親、中には子どもという人もいるだろう。そういう身近だった人のために火を灯し続けているとしたら-。そう考えると、集落の人々の火に込められた想いが、少しだけ理解できた気がした。
その優しさと絆の強さに目頭が熱くなるようだった。 |
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帰りの車に乗り込んだ時、沖田面の村田さんから、高揚した様子で電話がかかってきた。
「今終わって山下りてるところです。 いや~、無事に終わって良かった。じゃあ、また。」
また来年。 長い冬の終わりと春の訪れを告げる万灯火。 もうすぐ上小阿仁にも芽吹きの春がやってくる。
県北担当 やっつ |