信仰と文化の交わる山 田代岳 2010.07.02掲載 |
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「夏が半分生まれる」と書く、半夏生(はんげしょう)。 夏至から数えて11日目をいい、半夏という植物が生える季節という意味もあります。 日本各地の農村では、昔から、この日までに農作物の植え付けを終えるという、 農作業のひとつの目安としてきたのだそうです。 半夏生にあたる7月2日、例大祭が行われる田代山神社を目指し田代岳を登りました。 |
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今回、田代岳初心者のわたしが同行させていただいたのは、「田代岳を愛する会」のみなさん。 毎年この半夏生の日に合わせて、田代岳の清掃登山をしています。 みなさんは、読んで字の如く、田代岳を愛してやまない人たち。 花の百名山に選ばれたことや近年の登山ブームをうけてそれをガイドする人を育てたいと 有志によって結成されました。 |
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清掃登山とは言うものの、 山には目立ったゴミはほとんどありません。 それでも、土の中からビール瓶が出てきたり、 ところどころ飴の包み紙が落ちていたりと、 無意識に捨てられたゴミがいくつもあります。 |
また、ガイドのおひとりが 「田代岳は今が一番いい。」というほどに 気持ちのいい7月のこの季節。 梅雨の恵みの雨と夏の暑さの狭間で、 森全体が生命力に溢れていました。 |
それでも不安定な天候が続く時期。雷注意報が発表されていたこの日でしたが、 幸運にも雨が降ることはなく、およそ2時間で無事に9合目に到着。 |
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途中「今はきついけど、9合目まで行けば ルンルンのピクニック気分だ。」と話していた 会長 渡部さんの言った通り。 青い空に白い雲、緑の湿原には白い綿毛。 疲れも吹き飛ぶ格別な瞬間です。 |
この日を心待ちにする人が多いのでしょう。 平日にも関わらず、田代岳3箇所の登山口から 大勢の人が登っていたようです。 みなさん昼時ということもあり、 湿原に腰を下ろしおにぎりを頬張っています。 |
田代岳は神の宿る山。 山頂の田代山神社では半夏生の日を例大祭とし、毎年作占いや豊作の祈祷をしています。 |
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五穀豊穣・水田の神として とくに大館市周辺の人たちに 信仰の厚い田代岳ですが、 秋田県と青森県の県堺に位置するため、 古くから青森県津軽地方の人たちからも 信仰の対象として大切にされてきました。
そのため、 この地は文化の交わるところでもあります。 この日、偶然にも、 その一端を垣間見ることができました。 |
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青森県弘前市 下田さんご夫婦です。 青森県の霊峰 岩木山の岩木山神社には「御山参詣(おやまさんけい)」という祭りがあります。 旧暦の8月1日、「サイギサイギ」の掛け声で、岩木山の麓の各集落の人々が、 隊列を組んで大きなのぼりや御幣を持ち、その後ろに囃子方を引き連れて岩木山に登拝。 五穀豊穣の祈願と感謝を込めてご来光を拝むのだそうです。 下田さんご夫婦の笛や鉦もその「御山参詣」のお囃子のひとつ。
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その昔、 岩木山の麓に暮らす人々は どこへ行くにも笛を持ち歩きました。 そして訪れる所々でその笛を吹きならし、 出会う人たちと交流していたのだそうです。 田代岳もそのひとつ。 時には秋田側の里へ下りて行って 教えていたこともあったのだといいます。 しかしそれも30年ほど前までのこと。
「山頂に着いて笛を吹いていたら、 もう一回吹いてくれって言われたんで。 昔はこういうのが沢山あったんですよね。」 と話すのは夫の下田雄次さん。 埼玉県の出身でありながら、 青森・津軽の文化に魅せられ 居ついてしまったという下田さん。 下田さんのHP「ばだら倶楽部」には、 津軽の文化がたくさん紹介されています。 |
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一方、神社の本殿では、神主による祈祷が行われていました。 | |
9合目の鳥居 | 5合目の鳥居 |
興味深く覗いていると、中から一升瓶を大事に抱えた人たちが出てきます。
大館市田代の「田代建設」の社員のみなさんです。 毎年一升瓶を担いで登り、祈祷をあげてもらったお酒を神社に奉納。 下山の時は前年に納めた一升瓶を持ち帰り酒盛りをするのが会社の恒例行事なのだとか。 「9合目と5合目の鳥居はね、自分たちが担いで持ってきたものなんですよ。」と 社員の津島剛さんが、一升瓶を抱えながら教えてくれました。 |
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後日、もう少しお話を聞きたいと思い 「田代建設」本社へお邪魔すると、 お酒は神棚にお札と一緒に 大切にお供えされていました。
専務の菅原さんは この行事の始まりについて、 自分が入った頃にはもうやっていたから、 と前置きしながらも、
「昔は社員にも兼業農家が多かったから、 作占いの意味合いもあったんでしょう。 わたしたちの仕事は 公共事業をもらっているものだし、 その恩返しの意味もあるのではないかな。 半夏生は雨の日も多いんだけど、 毎年社員が数人ずつ登っていて、 今まで休んだ年はありませんね。」と 20年以上も続く会社の行事の始まりを お話してくれました。
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「田代岳は地元の人もみんながみんな登るような山ではありません。 でも、山菜やタケノコを採りに昔から山に入ってその恵みを頂いていました。 だから、生活の一部として昔から大事に大事にしてきた山なんです。」 と話すのは田代岳を愛する会の高清水さん。
「愛する会も、これからは単なる道案内だけでなく、登山者を安全に楽しくガイドするため 研究会を継続して開いて、ガイドの向上に努めて行きたい。 田代岳は登山口までのアプローチもいいし、片道2時間程度の行程は小学生でも大丈夫。 9合目のたくさんの高山植物や頂上からの眺め、ブナの原生林には白神山地最大級の 巨木など見どころもたくさんあります。ぜひみなさん一度登ってみてください。」 |
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もちろん信仰と文化の交わる場所はここだけではありません。 海のある土地には海に神が宿り、川や森を大切にする地域もあるでしょう。 そういった古くから人知の及ばないものを敬い、崇めるという自然崇拝の気持ちは、 そのまま地域の絆を創り上げる役割を持っていたのかもしれません。 頂上から見える山並みの中に岩木山をみつけることができたなら、 その昔ここで交わされた人々の絆の深さに想いを馳せてみてください。 お囃子に興じる人の笑い声が聞こえてくるかもしれません。 県北担当 やっつ |
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【問い合わせ】 大館市 田代総合支所 産業建設課 産業振興係 |