秋田県では旧正月になると、鬼のような仮面を被った大人たちが家々を回る行事が行われます。子供たちがいる家を回り、チャイムも鳴らさずに乗り込み、子供たちに向かって行きます。

秋田市雄和ではその大人たちを「やまはげ」と呼び、子供達はその日を恐れています。「お母さんの言うことをちゃんと聞いてるか?」と怒鳴りつけるその様子はまさに鬼そのものです。

やまはげ、地域の守り神

しかし、実際は地域にとって大きな意味があります。やまはげに扮するのは地域の青年たちで、皆顔見知りです。彼らもかつて、子供だった頃にやまはげに会い、恐れていました。大人になった彼らは、自らがやまはげになり、次世代の子供たちを見て回ります。

この行事は地域の人々がお互いを知り、コミュニケーションを常にとっていないと成り立ちません。地域全体で子供たちを見守って行くという証でもあるのです。

お守りのわら

やまはげが帰った後、家にはやまはげのわらが落ちていることがあります。子供達はそれを拾って、一年のお守りとします。この地域では、子供たちが悪さをすると、お母さんから「そんなことしていたら、やまはげさんを呼ぶよ」としつけるそうです。

最初は、正直子供たちがかわいそうだと思いました。ドアのベルも鳴らさないで家に勝手に入ることはメキシコではあり得ません。しかし、徐々に大人たちの意図が分かり、とても興味深く感じました。

私がやまはげの格好をして、街を歩いていると、地域の人たちが、「おつかれさまです」「がんばって」と声をかけてくれました。中には80歳以上のおばあちゃんがわざわざ玄関まで出てきてくれて、私たちが通るとお辞儀をしてくれました。このイベントが地域にとって大切なものなんだと理解しました。

びっくりしたのは、各家々でお酒が振舞われることです。全部で20件も回ったので、終わる頃にはやまはげはみんな酔っ払いでした。雪がたくさん降る秋田県の冬に、地域全体で盛り上げるとても楽しいイベントです。(メキシコ)