土地の”日常”が練り込まれた「中山そば」

日本では、年越しにそばを食べる風習が今でも残っています。この風習が根付いた由来は諸説あり、いつから始まったものなのかも定かではありません。一説では、そばが他の麺類よりも切れやすいことから、「今年一年の厄災を断ち切る」という意味を込めて、年が明ける前にそばを食べるようになったと言われています。元々そばは、60~130cmほどに生長するタデ科の植物「蕎麦(そば)」が由来となっており、そのそばになる種を挽き、製粉してできるそば粉を原料としています。「厄災を断ち切る」と言われている通り、そば粉だけでは切れやすく調理が難しいため、つなぎとして小麦粉が使われることが多いです。

古くからそばが有名な秋田県大館市中山では、つなぎに大館市の特産品である「山の芋」を使うのが最大の特徴です。山の芋は、他の芋に比べ粘りが強く、つなぎに最適の食材です。栄養価も高いことから、滋養強壮の食材として山の鰻とも呼ばれており、そば粉と一緒に練り込むことで喉越しが良くなります。

石垣一子さんは、そばが有名な中山地区出身の旦那さんの家に嫁いでから、自然とそばづくりを手伝うようになり、 かれこれ40年以上そばを作り続けています。石垣さんが働く大館市の直売所「陽気な母さんの店」では、野菜を買うだけでなく、田舎ならではの様々な体験をすることができます。

「もともと中山地区でそばが根付いたのは、ほかの作物が育たない土壌だったからなんです。そばの実しかならなかったから、売るものとしても自分たちが食べるものとしてもそばを練ることが当たり前になっていったんです。今もそれぞれの家庭でそばをつくって食べますし、年末にはそばを売りに各家庭をまわる人がいるくらい、中山にはそばの文化が根付いています。(石垣一子)」

秋には、県内の大学生や留学生向けに、中山そば作り体験が開催されました。20名以上の参加者が集い、女性の参加者は、「秋田おばこ」と呼ばれる絣(かすり)模様の着物ともんぺに着替え、そばを作りました。中山の冷やしそばは、一般的な冷やしそばの食べ方とは異なります。めんつゆはごく少量で、細かく砕かれた氷とまんべんなく混ぜられ、よりそばの香りと味が引き立つようになっています。

体験に参加していた大学教授のアメリカ人女性は、「中山そばは、地球の味がする。この土地をそのまま食べているみたい」と話していました。この土地ならではの素材が使われ、文化と共に引き継がれてきた中山そばには、中山に暮らす人々の”日常”が練り込まれています。

「今はほとんど中山にしかそばを卸してないので、ぜひいろんな人に中山そばを食べに来てほしいですね。(石垣一子)」

さっき作ったばかりのそばなんだけど、美味しい!私の友達のを見て、それぞれのそばが全然違うの。太さとかね、そば作りは楽しい、疲れるけど。みんなもぜひやってみて!