緑黄野菜の乏しい雪国にとって、山菜は、なくてはならない貴重な食料である。秋田の伝統的な山菜料理は、おふくろの味とも言われ、保存の仕方、戻し方、食べ方に工夫を凝らした利用法が伝承されている。
雪国の山菜図鑑では、秋田を代表する山菜の見分け方、採り方、簡単な料理法を紹介する。雪国秋田の森の豊かさ、大切さ、田舎の味に代表されるスローフードを見直すキッカケになれば幸いである。
▲白神山地のブナ林
▲和賀山塊日本一のブナ
雪国・秋田は、ブナ帯に位置している。ブナ帯の山菜は、種類も量も比較にならぬほど豊富で、多彩な調理法が伝承されている。早春、山の木々が一斉に芽を吹き、緑の衣をつけはじめる。あたり一面が若緑になると、山は、コダシを下げた山菜採りでにぎわう。
「花っこ咲けば/山のもの採りに行くどで/奥山さ二里も歩たなぁ/アイコにシドケ、荷縄でまろって/いっぺ採たもんだ/ 重でがったどもおもしれがった」 ・・・「あきた郷味風土記」(秋田県農山漁村生活研究グループ協議会)より
昔は、長い冬を越すために、ワラビ、フキなどの山菜用の漬物桶、キノコ類の漬物桶、ハタハタずしやマスの飯いずし、野菜の漬物桶など、大小さまざまな桶が土蔵や水屋に隣接した漬物小屋に並んでいた。
春の使者・バッケ(ふきのとう:秋田県の花)
▲雪国に春の訪れを告げるフキノトウ 「雪国の民俗」(柳田国男・三木茂著)には、バッケについて「春きざす」というタイトルで次のように記している。
「春をさきがけてバッケが消えかかった雪の下から頭をもたげる。枯草のあいだから浅緑の拳がヌッと伸び上がった姿は新鮮でたくましい。雪国の人たちがバッケを見つけると、とても喜ぶ。いよいよ春だという確信が得られるからである。
この頃になると、日向にムシロを敷いて女の子がバッケを刻んでママゴトに余念がない。やっと乾いた道路や空地では、男の子が駆けっこや珠投げに、裸足を何よりも喜ぶ。高い声がカゲロウと一緒にまっすぐ薄青い空に立ち昇る。早梅もチラホラして、家の戸口に貼った「立春大吉」が遅い春にやっとピッタリする。」
日本中で最も普遍的に分布している植物がフキである。山里の田んぼの畔や道端、沢の土手など日当たりの良い場所に群生する。フキは雪解けの頃、花のツボミをバッケ(フキノトウ)と呼び、早春の味として利用されている。まだツボミが開かない若芽が旬。
- 採り方・・・採取は、まだ開かない若芽を選び、手でひねりながら採る。
- 料理・・・天ぷら、刻んで味噌汁、バッケみそ、揚げ田楽など。 独特の苦味が山菜マニアに好まれている。
- バッケみその作り方・・・よく水洗いし熱湯で色好くサッとゆでる/冷水にさらし、ザルに上げる/ よく水分をとり、細かく刻む/フライパンに油を熱し、味噌、砂糖を入れて練る/ 刻んだバッケを入れて、ざっと混ぜる
シドケ(モミジガサ)
山菜特有の香りと苦味があり、ブナ林を代表する山菜の一つ。葉が開く前は傘のように垂れ、葉が開くとモミジの形をしていることからモミジガサと名付けられた。渓流沿いの斜面などに生える。秋田では、シドケと呼ばれ、山菜の王様として重宝されている山菜の一つ。
茎が太く、まだ葉が開かない傘のような状態が旬。右下の写真のように、色艶が美しく、茎の太い若芽が最上級品。
- 採り方・・・一般に、沢沿いの下にアイコ、上の斜面にシドケが生えている。採取は、できるだけ茎が太いものを選び、手で自然に折れるところから折るのがコツ。少々面倒だが、一本、一本根元をナイフで切り取ると、見た目が美しく後始末も簡単である。
- 料理・・・おひたし、天ぷら、汁の実、煮付け、油煮、ごま和えなど長期保存は、塩漬けや茹でたものを天日で乾燥させて保存する。
- 山菜のおひたし・・・山菜特有の香り、歯ごたえ、うまみを簡単な調理で味わうのが「おひたし」。まず塩を一つまみ入れて大鍋を沸騰させる。熱湯に山菜を根元から入れ、再度沸騰したらOK。茹ですぎると風味を損なうので注意が必要だ。茹でたら、素早く冷水にさらす。かたく絞ってからかつお節をふりかけ、醤油、ごま醤油などで食べる
アイコ(ミヤマイラクサ)
シドケと並びブナ林を代表する山菜。大きく伸びたアイコは、全草に鋭い刺があるのが最大の特徴で、素手で触ると悲鳴を挙げるほど痛いので注意。深山刺草(ミヤマイラクサ)と呼ぶように、山菜として深い山地の沢沿いに群生している。
- 採り方・・・全草にトゲがあるので、必ず軍手をはめて採る。腐葉土が厚い所では、土中に入った茎の部分は意外に深い。できるだけ深い根元から採取するには、手前に折り返すように折り採るのがコツ。
- 料理・・・おひたしは、茹でてから冷水にさらし、一本一本皮をむいてから適当な長さに切り、マヨネーズやかつお節をふりかけ、醤油をつけて食べる。他に和え物、汁物、炒め物、一夜漬け、味噌漬けなど。
- 山菜の和え物・・・おひたしに一工夫加えた調理法が和え物。酢味噌和え、ゴマ和え、豆腐を使った白和え、辛子と醤油を混ぜた辛し和えクルミやピーナッツをすって和えたものなど。
ホンナ(ヨブスマソウ)
渓流周辺の湿った斜面に生える。独特の香りと味があり、シドケ、アイコと並び雪国を代表する山菜の一つ。民謡「秋田おばこ」には「おばこどこさ行く/うしろのお山さ/ホナコ折りに」と歌われるほど親しまれている。秋田では、ホンナ、ホナコ、ボンナなどと呼ぶ。
ホンナ(ヨブスマソウ)は、キク科の中でも葉がコウモリやカニのような形をしているので覚えやすい。葉の形によって数種類あるが、どれも食べられるので安心。もちろん若芽や若葉の頃が旬。
- 採り方・・・手で軽く折れる硬さのところから採取する。
- 料理・・・軽く茹でて、水にさらし、鰹節をふりかけたおひたしが定番。他にごま和えや酢味噌和え、油炒め、天ぷら、汁の実など。アクは少なく、鍋物に入れても、煮物に入れても味が良くしみて美味しく食べられる。長期保存は塩漬け。
アザミ類
アザミの仲間は種類が多く、どれも棘だらけで、すぐにアザミと分かるが、何というアザミかとなると区別が難しい。しかし、春の若芽や初夏の若茎は、どの種類のアザミも食べられるから安心だ。
- 採り方・・・アザミの旬は、雪消え直後に開いたロゼット状の若葉である。葉の先に刺があるので、軍手は必携。手で採らず、根を引き抜かないようにナイフで切り取る。
- 料理・・・刻んで味噌汁の具、天ぷら、茹でてゴマ味噌和え、おひたし。 モリアザミの初夏の若茎は、ゆでて水にさらし、皮をむいてからマヨネーズで食べると美味い。
- アザミの酢味噌和え・・・アザミを洗って塩をひとつまみ入れた熱湯で、茶色のアクがでるまで長めに茹でる。水にさらし、十分水気を切って適当な長さに切る。酢味噌で和えて器に盛る。
コゴミ(クサソテツ)
谷沿いの斜面や渓流沿いに生える。伸び始めた葉の先が、ゼンマイのようにしっかり巻いている若芽が旬。秋田では、頭が低いからコゴミと呼ぶ。右の写真のように、あっという間に伸びるので、採取適期は意外に短い。クセのない味で万人に好まれ、今では栽培物がスーパーで売られている。
山菜として食べるシダ植物には、ゼンマイ、ワラビなどがあるが、アクが強く、下ごしらえが面倒だ。ところがコゴミは、アクもなく下ごしらえも簡単で、万人に好まれる山菜である。
- 採り方・・・葉が開く前、丸く巻いた若芽の根元部分をナイフで切り採る。
- 料理・・・軽く茹でると、鮮やかな緑色になる。胡麻和え、酢味噌和え、マヨネーズ和えが定番。他に天ぷら、汁の実、煮物、サラダ、漬物など料理のバリエーションも広い。
トリカブト(毒)に注意
▲猛毒・トリカブトの若芽
▲食用のニリンソウの若葉はトリカブトの若芽と似ているので注意
日本の毒草の中では、最も毒性が強いので要注意。
ニリンソウやシドケと間違えて採取し、中毒する例が少なくない。
▲トリカブトの根
トリカブトは、根元を引っこ抜くと簡単に根ごと抜けてくる。全草が毒だが、特に大きな根の毒性が強い。
▲ニリンソウとトリカブトの混生
混生している若葉のアップ・・・実に紛らわしい。山菜採りやキノコ採りは、クマとの遭遇や毒草、毒キノコなど、常にリスクが伴うことも忘れずに。
ヤマウド
腐葉土が雪崩で堆積した崩壊斜面に群生する。
土から顔を出したウドは、姿、形ともに美しく、被写体としても魅力的な山菜である。
- 採り方・・・落葉を取り除き、根元深くナイフを突き刺し切り取る。深山のウドは根も茎も太く、ボリューム満天で採るのがすこぶる楽しい。
- 料理・・・茎は味噌をつけて生食、酢味噌和え、ゴマ味噌和え、若芽は天ぷらが定番。ウドの変色を避けるには、酢水にさらすこと。皮を使ったキンピラも美味い。
- ウドのドレッシング和え・・・ウドは皮をむき、拍子切りにし、水に入れてアクを抜く。その他の野菜(きゅうり、ピーマンなど)を千切りにする。ウドのミズを切り、他の野菜と一緒に盛り付け、ドレッシングで和えて食べる。
ギョウジャニンニク(アイヌネギ)
ギョウジャニンニクは、深山で修行する山岳信仰の行者たちが、荒行に耐える強壮薬として好んで食べたことから名付けられた。北海道ではアイヌネギと呼ばれている。鼻をつくニンニクのような強い臭いがする。
- 採り方・・・葉が一枚しかつけないものと、二枚のものがある。茎が太く、葉が二枚出るまでには、7~8年もかかるという。だから茎が太く、葉が二枚のものを選んで採取する。また、根こそぎ採らないように、必ずハサミまたはナイフで一本、一本根元を切り取ること。
- 料理・・・生食(茎の根元部分)、おひたし、醤油漬け、酢味噌和え、豚バラの油炒めなど
クレソン(オランダガラシ)
明治の頃、香辛野菜として持ち込まれたものが全国に野生化した外来種。しばしば深山の沢沿いや湧水池にも野生化したクレソンを見掛けることがある。沼の水面を覆い尽くすように群生し、その繁殖力の強さには驚かされる。
▲湧水池に群生したクレソン
▲沢沿いの湧水周辺に群生したクレソン
- 採り方・・・ナイフで根元を切り採る
- 料理・・・生のままサラダや刺身の薬味、天ぷら、煮物、汁の実など。
ヤマワサビ
ヤマワサビは、傾斜がきつく、きれいな水が湧いているか、斜面のすぐ下に伏流水が流れているような湿っぽい場所に群生する。周囲の林相は、サワグルミ林の場合が多い。ワサビが優占するような斜面には、他の山菜(アイコやホンナ、シドケ)は少ない。白い花を咲かせる頃が、採取の適期である。
- 採り方・・・野生のワサビの根は、意外に細く小さい。持続的な利用を考え、根は太いものだけを選び、数本採るだけに止める。ワサビの本命は、根を除いた全草・・・だからナイフや鎌で刈り取るのがコツ。
▲清流のシンボル・ヤマワサビの若葉・・・ワサビの葉は、艶のあるハート形で美しい
- 料理・・・茎と葉を細かく刻み、湯通し又はさっと茹でてから、冷水で冷やす。 おひたしや和え物、一夜漬けに。根はすりおろし、刺身の薬味に。花は料理の彩りに使うと食欲をそそる。大量に採取した時は、粕漬けや万能つゆに漬け込むと美味い。
- ヤマワサビの醤油漬け 適当な長さに刻んだヤマワサビをザルに入れ、熱湯をかける。 水気を絞ったワサビをフリーザーパックに入れ、万能つゆを注ぎ、冷蔵庫の中で冷やしながら漬け込む。
ミズ(ウワバミソウ)
春から秋まで長い期間食べられるだけに、最も利用されている山菜の代表格。上の写真のように沢筋の湿地帯に「ミズ畑」と呼ばれる大群落を形成し、大量に採取できる。
クセもなく、どんな調理にも合う。根元の色によって、アオミズ、アカミズと区別している。
- 料理・・・ミズたたき、即席漬け、汁の実、煮付け、おひたし、油炒め、卵とじ、和え物など。
- ミズの即席漬け・・・ミズは葉とヒゲ根をとってよく洗い、皮をむく。沸騰したお湯に塩をひとつまみ入れてゆで、冷水にさらしてから、3~4cmほどの長さに切る。みじん切りにしたショウガと塩をふり、指先で軽くもみながら混ぜ合わせる。塩昆布で混ぜ合わせると簡単である。数時間で食べられる。
- ミズたたき・・・アカミズの葉をとってざっと熱湯を通し、ビニール袋に入れ、その上からすりこぎでたたいてつぶす。さらにまな板の上で粘りが出るまで包丁でたたく。これに味噌を入れて混ぜながら軽くたたいて、最後に山椒の葉(またはニンニク)を細かく刻んで入れる。小鉢に盛り、山椒の葉を添える。
9月頃になると、茎と葉の付け根に小さな丸いムカゴ状の実がつく。秋田ではミズのコブコと呼んでいる。カモシカは、ミズのコブだけを選り分けて食べるくらいで、人間にとっても大変美味い。上の写真は、ミズのコブだけを採取したもの。これを味噌漬にすると、粘りのある美味しい漬物「ミズのコブコ漬け」ができる。
ウルイ(オオバキボウシ)
山に生える多年草で、7月頃になると薄紫色の美しい花を咲かせる。食べるのは若葉の丸まったものや葉柄で、葉柄だけは大きくなっても食べられる。地上に芽を出した若芽は、毒草のコバイケイソウと似ているので注意。
- 採り方・・・葉の開かない丸まっているものが旬、その茎の部分をナイフで切り取る。若い葉でも苦味が強いので、葉の部分は手でちぎり、茎の部分だけ採取する。
- 料理・・・刻んで味噌汁。茹でてから、冷水にさらし、マヨネーズ、ワサビ、ゴマなどで和える。また、一夜漬けも独特のヌメリと歯応えがよく美味い。
ワラビ
最も身近な山菜の代表。伐採跡地など日当たりの良い草地や川沿いの土手などに生える。
- ワラビのアク抜き・・・ワラビは洗って硬い根元を切ってから、指先で先端部分の゛ほだ゛をとる。大きめの容器にワラビを並べる。木灰又は重曹をふりかける。熱湯をワラビが完全に隠れるまでムラのないように全体に回しかける。蓋をしてそのまま翌朝まで置く。アク水を捨て、ワラビを冷水の中につけて数回水をとりかえるか、1~2時間流水にさらしてから使う。
- 料理・・・おひたし、たたき、しょうが和え、汁の実など。
- ワラビの長期保存法・・・ワラビはたくさん採って樽に漬け込み、長い冬の食糧として蓄える。採ってきたワラビを次々と樽に積み重ね、その度に真っ白になるほど塩をふって重石を置く。褐色の水がしみ出て蓋の上まで上がってくるが、そのままにして次のワラビを積み重ねていく。アク抜きをしなくても食べられるようになる。
また、ゼンマイと同様、天日で乾燥させた干しワラビにして保存する方法もある。
ゼンマイ
▲右手前がゼンマイ、奥左の花はシラネアオイ
古くから山人たちにとって、ゼンマイ採りには生活がかかっいた。シラネアオイが咲く五月晴れともなれば、縁側から軒先にかけて、ゼンマイを乾燥させる風景は、山村の風物詩だった。
水洗いをした後、煮上げし、風通しの良い日向で干す。乾く途中で、両手で丹念に揉むことが製品の決め手となる。
生ゼンマイ10貫目を干しゼンマイにすると、1/10の1貫目になる。昔は1戸で2貫目ほど確保し、残りは売って副業としていた。
ゼンマイは雪崩の多い危険な急崖に生える。それだけに山のプロと呼ばれる人たちが採る山菜の筆頭である。沢沿いの湿り気のある急斜面を好み、大群落を形成する。春先の若芽は、銭がクルクル回転しているように見えるので、銭舞(ゼニマイ)と呼ばれたことから名付けられた。ちなみに時計のゼンマイは、このシダ植物の名前が由来だという。
- 採り方・・・ゼンマイは、ワラビやコゴミと同様、シタの仲間。大きな株から数本立ち上がる若芽の先は、ゼンマイ状に巻き込まれ、白い綿毛に包まれている。葉の若芽と胞子をつける胞子葉がある。胞子葉を「男ゼンマイ」と呼び、採らずに残すことが持続的なゼンマイ採りの鉄則である。従って、栄養葉を選んで折って採る。また、ゼンマイのプロは、同じ沢に毎年入らず、ゼンマイの生える沢を3本以上もち、3年に一回程度のローテーションを組んで持続的な採取に心掛けている。
- 料理・・・味噌汁、煮物、和え物、油炒め、天ぷら、納豆汁、各種鍋物など
- 干しゼンマイの戻し方・・・人肌ぐらいの湯に5~6分つけて、少し柔らかくする。そのゼンマイを60度くらいの湯に浸し、自然に冷ます。この時アクが出て、液が茶色になる。これを3~4回繰り返して、アクを抜きながら徐々にもどす。
ヤマドリゼンマイ
ゼンマイとして食用に利用されているのは、ゼンマイとヤマドリゼンマイの二種。
ゼンマイは危険な岩場に多く生えるが、ヤマドリゼンマイは開けた明るい湿地に生える。ゼンマイに比べ楽に採取でき、味もゼンマイに劣らない。
ゼンマイは白っぽい綿毛を被っているのに対し、茶褐色の綿毛を全身に被っている。
干しゼンマイとして売られているものは、ヤマドリゼンマイの方が多いと言われている。
タケノコ(ネマガリダケ)
5月下旬から6月、タケノコは、数ある山菜の中でも間違いなく横綱級の美味さ・・・その美味さは一度食べると病み付きになるほど美味い。しかし、早朝、魔の笹薮に飛び込み、タケノコ採りに夢中になる余り、方向を見失い、遭難するケースが絶えないので注意。
- 採り方・・・標高1000m前後の山に生えるタケノコは、太く味もすこぶる美味い。笹薮の地上に少し顔を出したくらいのタケノコが旬。土をはらい根元近くを起こして折りとる。
- タケノコの皮むき・・・100円ショップで売っている万能皮むき器が便利である。タケノコの先端から根元にかけて、一筋の切れ目を入れるだけで簡単に皮を剥くことができる。長刀のように伸びたタケノコは、節々が硬いので硬い部分を包丁で切り落とし、軟らかい部分のみ食用として使う。
▲サワモダシ(ナラタケ)を入れたタケノコ汁<
- 料理・・・アクがほとんどなく、味は上品で淡白、香りや舌ざわりもすこぶるよく、雪国では最も人気が高い山菜の一つ。採りたてのタケノコをその場で調理し食べるタケノコ汁は格別に美味しい。皮をむかずに、焚き火で焼いてから、味噌をつけて食べる焼きタケノコ、天ぷら、タケノコとブナカノカ(ブナハリタケ)の煮付けなど各種煮物、鍋物など、どんな料理にも合う。
- ▽タケノコ汁 あたためた鍋にサラダ油で豚肉を炒め、水とタケノコを入れる。 アクをすくいながらタケノコが柔らかくなるまで煮る。 八分目ぐらい煮えたところで、コンニャク、ニンジン、味噌を入れ、味がしみこむまで煮込む。
- ▽タケノコの長期保存 皮をむき、タケノコの缶詰で保存するのが一般的である。
山のアスパラガス・・・ヒデコ(シオデ)
秋田では「ヒデコ」と呼び、民謡「ひでこ節」に登場するほど馴染み深い山菜の一つである。「十七、八 ナ/今朝のナァ/若草/どこで刈ったナァ/このひでこナア/アラヒデコナァ・・・」。若い男女が、山菜のヒデコを採る時に歌った唄である。仙北市角館町白岩地区では、この山菜・ヒデコをメインに地域おこしをしようと栽培研究に取り組んでいる。
山野の日当たりの良くないところに生えるつる草で、ほかの植物にまといついて生長する。稀に大きな群生もみられる。一番生え、二番生え、三番生えと摘むことができる。
- 料理・・・ベーコン巻き、おひたし、三杯酢、白和え、からし和え、味噌と納豆和え、煮びたし、すまし汁、煮付け、天ぷらなど料理のバリエーションが広い。
アキタフキ
秋田名物の秋田フキは、秋田市仁井田地区で栽培されており、6月頃には6~7尺にも達する。盛りの時は、「フキ林」を見るようだったという。この大型の変種・アキタフキは、秋田から岩手県以北、北海道に分布しており、野生のものでも高さ1.5m~2mにもなる。別名オオブキとも呼ばれている。
▲阿仁フキの栽培・・・野生のアキタフキと比べて、茎が細く柔らかいのが特徴。
- 採り方・・・フキの旬、刈り取り時期は初夏の6月頃。ナイフで切り取ったフキの芯から、雫が滴るようだと極上品。切り口の真ん中が黒褐色に汚れているものは、虫に食い荒らされた跡なので捨てること。葉も切り落とし、茎だけ食用とする。
- 料理・・・フキはアクが強く、そのままでは食べられない。熱湯で茹でてから、冷水にさらした後、一本づつ丁寧に皮をむいてから調理する。フキの油炒め、煮物、佃煮、味噌汁の実など
- フキの長期保存・・・大鍋で茹でて、皮をむき、小束にフキの皮で束ね、大きな樽に塩漬けにする。食べる時は、流水にさらして調理する。他に味噌漬、粕漬、佃煮、砂糖漬などがある。
タラノ芽(タラノキ)
林道沿いや伐採跡地に多い。木の芽では、コシアブラの若芽も有名だが、秋田ではほとんど食べない。ハカマを取り除き、生のまま天ぷらに。その他は、軽く茹でてからおひたしや和え物などに。
ノビル(ヒロッコ)
道端や畑、土手など身近な場所に生える。土の中の鱗茎ごと採取する。昔は、雪が解け出すと、ノビルやアサツキを「ヒロッコ採り」と称してよく採った。白い鱗茎は、生のまま味噌をつけて食べる。軽く茹でて、おひたしや和え物、天ぷら、炒め物に。
ヤブカンゾウ
やぶ地に生えるからヤブカンゾウ。山里の村周辺を歩けば、簡単に見つけることができる。しばしば耕作放棄地にも群生している。若芽は緑が鮮やかでみずみずしい。軽く茹でてから水にさらす。軽いヌメリがある。酢味噌和え、煮付け、天ぷら、汁の実、油炒め、バター炒め。
イタドリ(サシドリ)
土から顔を出したばかりの若芽を採る。右の写真のように成長したイタドリは、皮をむき塩漬けにしてから、味噌汁や煮物にすると美味い。酸味があるから酢を使った料理が合う。茹でてから水にさらし、酢味噌和えや胡麻和え、酢の物、汁の実、油炒めなどに。生のまま天ぷらや塩をつけても食べられる。
カタクリ
採取は、根元近くの茎をつかんで軽く上に引き上げると、スポッと白い茎より上が抜けてくる。花も含めて全草をさっと茹でてから、おひたし、天ぷら、油炒め、汁の実、和え物、酢の物など。
ニョウサク(エゾニュウ)
夏、クマはこの大型の草を好んで食べる。株の真ん中の若い茎を切り取り、皮をむいて塩蔵する。アクが強く、すぐに食べられない。ただし味はすこぶる美味・・・煮物、油炒め、煮付け、天ぷら、汁の実など。
その他の山菜
▲ハンゴンソウ
しばしば沢筋に群生し採りやすいが、アクが強い。20cm前後の若芽を採る。アクが強いので、よく茹でて、一昼夜以上水にさらす。煮物や和え物、天ぷら、油炒めに。
▲ウバユリ・・・若芽は食用になる。鱗茎は、秋に掘る。茹でて、おひたし、和え物に。掘り取った鱗茎は、塩茹でしてから、和え物や煮物、天ぷらなどに。
▲ダイモンジソウの若葉・・・アクがないので、生のまま天ぷらに。軽く茹でてから、各種和え物や酢の物、サラダに。
▲トリアシショウマ・・・鶏の足のような形で、全身が茶色の毛に覆われ、不気味な感じがする食用種。茹でて水にさらし、汁の実や煮物、油炒め、和え物、天ぷらなどに。
▲ヨモギ・・・生のまま天ぷらが美味い。茹でて水にさらし、各種和え物や油炒め、汁の実に。
▲ツクシ・・・10cmくらいのツクシを採る。ハカマを除いた茎だけを茹でてから水にさらし調理。煮物や酢の物、汁の実、胡麻和え、味噌和えなど。
▲ギシギシ・・・道端や荒地、せせらぎ水路など、身近な場所に生える。若芽が丸く、サヤを被っている頃に採る。サヤを除き、茹でてから水にさらし調理。おひたしや酢味噌和え、胡麻和え、汁の実、煮物、油炒めに。
▲スイバ(スカンポ)・・・昔は、塩をポケットに突っ込み、田んぼまで一目散に走った。畦に腰を下ろし、次々と茎を摘み、生のまま良く食べた。一夜漬けやおひたし、和え物、煮物などに。多量のシュウ酸を含んでいるので過食に注意とか。
▲セリ・・・初冬の風物詩・三関のセリは、豊富な清流に恵まれた山麓の扇状地で栽培されている。セリは、正月に食べる七草粥の七草のひとつに数えられているが、9月から翌年3月までの長期間にわたり栽培されている。
湯沢市産のセリはシャキシャキとした歯ごたえがあり、根の部分が白く長いのが特徴。古文書によると、元禄年間に関口村山麓に自生していたセリを食していたという記録があり、古くから栽培されていた。最近はハウス栽培も盛んで、高品質な「三関セリ」としてブランド化されている。
▲山の幸定食
上左から、ワラビ、シドケのゴマ味噌和え、アイコのおひたし、ウドの酢味噌和え、シドケのおひたし。
下左からウドと豚バラのごま油炒め、岩魚の燻製、そして岩魚の骨酒、タケノコ汁。
雪国の春は、「山の幸定食」が楽しめる最高の季節である。
クマに注意!・・・クマの痕跡と被害防止対策
▲ツキノワグマの足跡(八幡平)
▲タケノコを食べたクマの糞(6月中旬、仙北市田沢湖町大深沢支流ヤセノ沢源頭)
初夏になるとクマは、チシマザサの若芽が土から顔を出す場所を移動しながら一ヶ月もタケノコを食べ続ける。従ってクマと遭遇する機会も多く、人身被害も絶えない。
▲クマがタケノコの皮をむいて食べた痕跡(6月上旬、八峰町真瀬川中ノ又沢県境稜線)
▲クマが沢筋に生えるエゾニュウを食べた残骸(太平山系)
▲下から山刀、クマ撃退スプレー、クマ避け鈴、爆竹
ツキノワグマによる人身被害は、山菜採り、きのこ採りの人たちが圧倒的に多い。クマとの無用なトラブルは、積極的な被害防止対策で防止できる。
- クマ被害防止対策
- 一人ではなく、必ず複数人で行動する。
- 自分の存在を知らせる・・・熊避け鈴や高周波の音が出る笛を鳴らすなど、クマに対して常に自分の存在をアピールすること。
- 人間の味を絶つ・・・残飯や生ゴミは絶対に捨てない。人間が捨てた残飯の味を覚えると、クマを引き寄せる原因となるので特に注意が必要だ。餌を与えることは論外。
- 万一クマと遭遇したら・・・
- 背を向け走って逃げるのは自殺行為である。眼をそらさず対峙する。静かにクマから離れる。
- 小グマを見かけても決して近づかない。近くに母グマがいる場合は、最も危険である。
- 襲ってきたら・・・山刀や熊撃退スプレーが有効と言われている。
山菜採り、きのこ採りのマナー
①国立公園の特別保護地域など、植物や昆虫などの持ち出しが一切禁止されている地域での採取は厳禁。
②私有地や森林組合などが入会権を持っている場所は、当然のことながら採取禁止で、決して立ち入らないこと。こうしたエリアには「山菜採り、キノコ狩り禁止」といった表示板が多い。
③山菜は採り過ぎると、その場から消えてしまう種類が多い。良いものを選び、間引くように採取するのがコツ。
例1: タラノメ・・・3番芽までつむと芽が出てこなくなるので、採取を慎むこと。
例2: ゼンマイ・・・褐色の胞子のうのついた男ゼンマイは採らずに残す。
④ 山菜以外の山野草類をみだりに採取しない。
⑤ ゴミは全て持ち帰ること。
参考文献
- 「あきた郷味風土記」(秋田県農山漁村生活研究グループ協議会)
- 日本の食生活全集⑤「聞き書 秋田の食事」(農山漁村文化協会)
- 「阿仁川流域の郷土料理」(モリトピア選書9、建設省東北地方建設局森吉山ダム工事事務所)
- 「あきた山菜キノコの四季」(永田賢之助、秋田魁新報社)
- 「山菜ガイドブック」(山口昭彦、永岡書店)
- 「ブナの森と生きる」(北村昌美、PHP新書)
- 「釣り人のための山菜・きのこ」(菅原光二著、つり人社)
- 「山菜と木の実の図鑑」(おくやまひさし、ポプラ社)