*こちらのページは、平成12年に編集いたしました。

ブナ林のきのこ図鑑INDEX

日本のキノコ文化を東西二つに区分すると、西は「マツタケ文化圏」、では東は・・・「マイタケ文化圏」と言いたいところだが、「雑キノコ文化圏」と呼ぶ。それほどブナ帯の森には、春から秋までさまざまな美味しいキノコが生える。キノコは、どれ一つとして同じものはなく、それぞれ個性的、芸術的である。ブナ帯のキノコは、美味しいだけでなく、自然の妙、自然の造形美が素晴らしい。雪国・ブナ帯のきのこ図鑑では、昔から慣れ親しんできた代表的なキノコの造形美と見分け方、採り方、簡単な料理法を解説する。

太古の昔から、キノコは「秋の香」だった。黄金に輝くブナの森、マタギの渓谷を白く染め抜く滝、木漏れ日に燃えるブナ帯の秋、風に倒れたブナに新たな命が無数に芽生える。生命の賛歌が不思議な旋律を奏でているようだ。

晩秋の陽射しに、黄色から褐色のグランデーションが眩しいほどの輝きを放つ。錦秋の美を見上げては感嘆の声を上げ、足元を走る岩魚の姿を眺めては微笑む。

マイナスイオンと黄葉のシャワーを浴びて、谷を彷徨い、きのこや木の実の匂いに誘われて斜面を駆け上がる。倒木を埋め尽くすように生えたキノコの山に遭遇すれば、誰もがその魅力の虜になるだろう。


ブナ林のきのこ図鑑INDEX

日本産のきのこは約5000種類とも言われている。山渓カラー名鑑「日本のきのこ」には約千種類のきのこが収録されている。そのうち、キノコ狩りの対象は、美味かつ大量に採取できることが大前提である。

群生の規模が大きく大量に採取できる美味なきのこに絞ると、せいぜい20~30種類程度に過ぎない。これぐらいなら誰だって覚えられる。ちなみにブナ林のキノコ狩りオススメBEST10を列挙すると、以下のとおり

  1. サワモダシ(ナラタケ、春~秋)
  2. ナメコ(秋~晩秋)
  3. ムキタケ(秋~晩秋)
  4. ヒラタケ(春と晩秋)
  5. ウスヒラタケ(春~秋)
  6. シイタケ(春と秋)
  7. キクラゲ(春~秋)
  8. ブナハリタケ(秋)
  9. マイタケ(秋)
  10. トンビマイタケ(夏)

見つけた時の感動は、マイタケ、トンビマイタケが群を抜いているが、当たる確率が極めて低い。この二種は、プロ向きのキノコと言えるだろう。一方、サワモダシ、ナメコ、ムキタケ、ブナハリタケは、至る所に生え、大量に採取できるだけに万人向けのキノコと言える。


ヒラタケ(春と晩秋)

ヒラタケは、晩秋から春に生える代表的なキノコ。ブナなどの広葉樹、時に針葉樹の枯れ木、切り株などに多数重なり合って生える。 真冬の雪の積もった雑木林の枯れ幹に群生していることもある。傘は肉厚で弾力性がある。鼻を近づけると、キノコ特有の淡い香りがする。優秀な食菌で広く栽培され「しめじ」の名で売られている。しかし、天然と栽培物では大きさや形が格段に違う。

傘は5~15cmと大きく、まんじゅう形から開いて貝殻形、半円形、時に波打ったり、漏斗型になる。
形や色が多種多様で、素人が見分けるには難しい。

キノコの採り方・・・ヒラタケは、ナタやナイフで倒木に傷をつけないように切り取るのがコツである。その際、根元の土や落ち葉も丁寧に取り除く。

☆料理・・・採取した山菜とヒラタケの味噌汁、バター炒め、油炒め、
煮物、和え物、ホイール焼き、水分が少ない乾燥ヒラタケは天ぷらに。

▽「動物、植物、菌類」をバランスよく食べる・・・自然界には、動物、植物、菌類の三つが存在する。植物は、生産者で無機物から有機物を合成する。動物がそれを消費し、菌類が無機物に還元する。それを再び植物が有機物に変える。その永遠の循環が生態系を維持している。だから、自然界の「動物、植物、菌類」をバランスよく食べることが自然の理にかなった食生活だと言われている。

ウスヒラタケ(春~秋)

その名のとおり、ヒラタケより肉質は薄い。ブナやミズナラの風倒木に重なり合うように生え、収穫量も多い。全体的に白っぽく、成長すると傘は淡い灰色を帯びる。傘裏は白く、倒木に側生する。

苔生すブナの倒木に生えていたウスヒラタケ。折り重なるように群生している姿、形が美しく、被写体としても魅力的なキノコである。ヒダが白いものが旬で、古くなるとクリーム色からレモン色になる。

時に傘の表面が毒々しい色をしていることもあるが、傘裏は白く、二つに割ると、毒キノコの筆頭・ツキヨタケのような黒いシミはない。

☆料理・・・香りが高く、味に癖がない・・・肉質がやわらかく、歯切れが良いのが特徴。味噌汁、鍋物の具、炒め物、煮物など。

シイタケ(春と秋)

▲春のシイタケ
シイタケは、春と秋の二回発生する。ミズナラやシイ、クヌギなどの広葉樹、稀に針葉樹の倒木、切り株にも発生する。傘の表面がひび割れている場合が多く、周辺部に綿毛状の鱗片をつける。

秋に生えるシイタケは、表面にひび割れもなく、これがシイタケか?と疑うほど巨大になる。紛らわしい毒キノコ・ツキヨタケには、柄がないので下から見ればすぐに判別できる。

柄が硬く、ナイフで切り取るのがベター。傘が大きなシイタケは、塩ふり焼きにすれば香りが増して絶品である。

シイタケは、大きくなると平に開く。ヒダは白色で、密。
☆料理・・・焼き物、炒め物、味噌汁、鍋物、煮込みなどどんな料理にも合う

サワモダシ(ナラタケ、春~秋)

▲ブナの埋もれ木に発生したサワモダシ(ナラタケ、10月上旬)。ブナ帯を代表するキノコで、大量に採取でき、かつ美味しい

  • 発生は春から秋と比較的長い期間発生する
  • 秋田では9月中旬~10月上旬に多く発生し、稀に10月下旬にも発生する
  • 秋田では、ナラタケ、ナラタケモドキ、ヤチヒロヒダタケを総称してサワモダシと呼んでいる。ただし地方によって方言は異なる・・・サモダシ(北秋、鹿角)、サワボダシ(北仙北)、ヤチキノコ(南秋、仙北)、ボロメキ(仙北)などおびただしく、大衆的なキノコであることが分かる。

▲ブナの倒木に発生した幼菌

  • 他県の方言・・・ボリボリ(北海道)、ヤブタケ(新潟)、アシナガ(神奈川など)、オリミキなど
  • ブナ林などの広葉樹から針葉樹の倒木、切り株、枯れ幹、老木、埋もれ木などに群生する。

傘の表面は、白っぽい黄色から淡い黄褐色、褐色など多様で、中央部に細かい鱗片があり、周辺には放射状の条線がある。

▲初夏のタケノコシーズンに発生したサワモダシとタケノコ汁。サワモダシは春から秋まで発生し、山菜とキノコの味噌汁などによく利用される。特に、採りたてのサワモダシを入れたタケノコ汁は絶品である

採り方・・・採取のコツは、とにかくゴミが混ざらないように丁寧に採取すること。群生に出くわしたら、4~5本をまとめて採り、土のついた根元を取り除く。その際、枯葉などのゴミも一緒に取り除。
▽壊れやすいサワモダシの処理法
サワモダシの場合は、水洗いを省略して、とにかくそのまま茹でる。いったん茹でると、ゴミとの選別が簡単で、傘も壊れにくくなる。サワモダシは、茹でると丈夫なキノコに変身するのが最大の特徴である

☆調理、長期保存

  • 傘のヌメリと歯切れ、舌触りともに良く、ほのかに甘い香りがある 
  • 至る所に生え、収穫量の多いキノコの代表格で、保存は冷凍又は缶詰加工が一般的
  • 生食は×、缶詰などに加工し保存する際は必ず茹でること

☆料理…味噌汁、鍋物、おろし和え、酢の物、煮物、麺類の具など、どんな料理にも合う

キクラゲ(春~秋)

▲キクラゲ(7月) 春から秋にかけて、ブナ林などの山地に多く生える。ゼラチン質のキノコで、色は黄褐色から褐色

☆料理・・・中華風の炒め物や煮物に相性がいい。山菜と一緒に油で炒め、砂糖、味噌、コショウで味付けする。他に酢の物、酢味噌あえによくあう。熱湯にキクラゲを入れ、素早く上げて冷水にさらし、三杯酢であえると、コリコリして美味い

マスタケ(夏~秋)

▲旬のマスタケ(6月) 食用にできるのは柔らかい幼菌のみ・・・だから旬のマスタケに遭遇するのは極めて難しい。上のマスタケは、まさに旬・・・指で押さえると、耳たぶくらいの柔らかさ。色も鮮やかで、紅マスやサクラマスの身の色に似ていて美しい

☆料理・・・厚めにスライスしてフライや天ぷら、バター炒め、鍋物、味噌漬けなど。生食は中毒するので要注意。

▲秋のマスタケ(9月下旬) マスの肉のように紅色が美しく、右の写真のように7株も群生しているとまるでキノコの花のように見え美しい。こんな大群生は珍しい。

裂いてみると、肉の色はマスの肉色に似ている。県南地方では、よく昔から味噌漬けにする。

▲マスタケの天ぷら
旬のマスタケは、手で触ると、実に柔らかい。天ぷらにすると、見た目は赤味のカニかマスそのもの。塩をちょっと付けて食べると、まさにカニかサクラマス・・・。数あるキノコの中でも摩訶不思議なキノコであることは確かだ

トンビマイタケ(夏)

▲ブナの老木に群生した巨大トンビマイタケ(8月中旬) お盆の頃がトンビマイタケの発生ピーク。雨の少ない年ほどトンビマイタケの発生は多いと言われる。

根の周りだけでなく、長く地中を這う根の遥か先にも巨大な株が連なる。1本の木に約30株・・・恐らく50kg以上はあったのではないか。採取しても担げないほどの巨大トンビマイタケに遭遇すれば、ブナ林の底しれぬ力に圧倒される。

枝分かれした一枚一枚の傘片は桁違いに広くデカイ。食べ頃は、径20~25cm、傘の厚さが1cmぐらいが旬である。肉は白く次第に黒変し、肉質はやや弾力がある

姿・形の美しいキノコだが、一度採取すると、真っ白なヒダが真っ黒に変色する。これはトンビマイタケの特徴で、別に味に問題はない。このキノコは、若くても繊維質が強いのが最大の特徴である。

☆料理・・・傘にのびた縦縞に沿って切ると硬くて歯切れが悪い。むしろ、それに直角に包丁を入れ、なるべく薄く切るのが料理のコツである。味噌汁、お吸い物、炒め物、唐揚げ、天ぷら、キノコ飯、けんちん汁、鍋物、煮染めなど

キノコの横綱・マイタケ(秋)

▲ミズナラの巨樹の根元に生えたマイタケ(9月下旬) ブナの森でキノコの王様と言えば、ミズナラの大木の根元に生えるマイタケ。マイタケ専門に探したとしても大株を見つけるのは難しい。だから、山人はマイタケを「見つけた」とは言わず「当たった」という。上の写真は、巨樹の根元にどっしり座っているようなマイタケ3株・・・こんな状態を「スワリ」という。右のマイタケは巨大で、一株5kgほどの大物である

方言・・・メエダケ、マエダケ(全県)、アワビタケ(仙北・平鹿)、ヤマアワビ(平鹿)
マイタケは、白系、茶系、黒系の3種類、中でも黒系が最上級で、市場性も高い

採り方・・・両手で上又は下から起こすように採る。マイタケは、ナイフで切り取ると翌年以降生えないと言われる

▽ツクシとマイタケ・・・マタギがマイタケを採る時は、長さ1m程度のツクシを使う。ブナやイタヤカエデなどの枝のさきをノミのように平に削ったものを「ツクシ」という。マイタケは、木の根の洞穴に生えることが多いが、そんな時マイタケの根の当たりに見当をつけてツクシを差込み、感覚をつかんで株全体を起こして根から壊さず切り取る。こうしないと商品価値がなくなる。

▽マイタケ以外は刃物で採る・・・金属の刃物を鍛冶屋で作ってもらっている人もいるが、これで採るとウドなどは「ツキル」(次から生えない)と言って、あまり使わない。ただし、キノコ類はツクシを使って採るマイタケ以外は、全て刃物で切り取る。こうすると、水洗いしただけで食べられる。手で引っ張って採ると、生育環境が破壊されて、キノコが生えなくなる。

マイタケの生育過程と呼び名

▼発生の周期
マメからサワリを採取したキノコ木は1~3年、サワリからサカリ3~5株採取したキノコ木は3~5年、サカリからスワリ6~8株採取したキノコ木は6~8年間隔で発生する。

また、サワリ、サカリ、スワリを10株以上も採取したキノコ木は10年以上経過しないと再発生しないと言われる。

市場性が高いのは、油や和風だし、醤油、味噌、素焼き・・・和風料理、洋風料理にも合う万能キノコに加え、腐りにくく、保存性は、数あるキノコの中でも極めて高いからだ。

▽乾燥保存法
マイタケは一枚づつ細かく裂いて、ゴザやザルの上にできるだけ重ならないように広げる 光の当たる風通しのよい場所で2日間ほど天日干しにする。十分乾燥させた後、缶やビニール袋に密封し冷暗所に保管する。

天然物は、栽培物と違って巨大な株になり、極めて香りが良い。味も一流、歯切れも素晴らしい。その天然の風味と歯切れの良さを生かすには、短時間に調理できる料理が最適

☆料理・・・天ぷら、炊き込みご飯、鍋物、土瓶蒸し、お吸い物、味噌汁、佃煮、茶碗蒸し、炭火焼・ホイール焼き、マイタケ酒、酒蒸し大根おろし和えなど。特にきりたんぽやだまこもちなど、秋田の郷土料理に欠かせないキノコの筆頭である

ブナカノカ(ブナハリタケ、秋)

▲ブナハリタケの大群生
方言・・・ブナカノカ、カノコ、カヌガ、カヌガキノコ。とにかく収穫量が多く、古くから食用キノコとして重宝されてきた。

白から黄色を帯びたブナハリの群落は、森の中でも一際目立つ。しかも独特の香りは、遠くからでもその匂いを感知できる。

▲沢に倒れ込んだブナの巨木に、びっしり生えたブナカノカ。このキノコは群生しているので、一箇所見つけるだけで食いきれないほど採取できる。1カ所で数十キロの収穫をあげることも珍しくない。

傘は扇型から半円形、白色のち黄色を帯びる。傘の裏面は、その名のとおり、短い針が密生している。

▲ブナハリタケの幼菌。渓に倒れ込んだブナの倒木に生えた幼菌。クリーム色でとても美しく印象に残る一枚だ。

☆採り方・・・手で採取すると、ゴミや泥がつき、後の処理が大変。ナイフで丁寧に切り取るのが採取のコツ。雨の日以外でも水分を多量に含んでいるので、両手で水分を絞り出す。一時的に縮むが、スポンジのようにすぐ元の形に戻る。繊維質で丈夫なキノコである。

特有の香りが気になる人は、一度茹でこぼすか、塩蔵してから調理する。炊き込みご飯は、マツタケに似た香りがするという。

☆料理・・・味噌汁、油炒め(右の写真)、揚げ物、炊き込みご飯、鍋物

▽ブナカノカの煮付け・・・秋田では、秋の収穫の頃の料理として欠かせない食材。汚れを落としたブナカノカを食べやすい大きさにさく。厚手の鍋にサラダ油をひいて熱し、ブナカノカ、千切りにしたニンジン、ゴボウ、油揚げを入れて炒める。醤油と酒少々で味をととのえ、汁がなくなるまで煮詰める。最後にあらかじめ茹でておいたササギを加え、ひとまぜする。

▽タケノコとブナカノカの煮付け・・・塩蔵したものを田植えの頃の料理として使う。1.ブナカノカを塩抜きし、沸騰した湯でさっと煮る。2.タケノコは、沸騰した湯で5~6分茹で、水にさらしておく。3.鍋に豚肉を入れ、2のゆで汁と酒を加えて炒める。4.いったん鍋から豚肉をあげ、醤油で味をととのえ、コンニャク、ブナカノカ、タケノコを入れ、再び豚肉を加えて中火で煮る。味がしみたら最後にニンジンをいれ、数分煮立てる。・・・ミズ(ウワバミソウ)やアイコ(ミヤマイラクサ)などの山菜を加えると青味が出て料理が引き立つ。(「阿仁川流域の郷土料理」モリトピア選書9)


▲エゾハリタケ

ブナハリタケと同科のキノコで、ブナの立枯木の上部に発生する。長い棒で突いて落とす。冬、猟師が半腐れになって落ちてきたものを利用したことからヌケオチとも呼ばれる。

☆料理・・・塩漬けにした後、塩抜きしてから味噌漬けで食べる。

ヤマブシタケ(秋)

コナラ、ミズナラ、カシ、クヌギなどの枯幹や風倒木、老木のくぼみなどに垂れ下がるように生える。白い大きなボール状で良く目立つが、手が届かないほど高い幹に生えている場合が多い。採れる量も少ないことから、幻のキノコとして珍重されている

・方言・・・ウサギモタシ(仙北)、ウサギタケ(仙北)

針状で丸く、肉質はスポンジのように水分を含んでいる。歯ざわり、口当たりともに良く、さっと茹でて刺身風にワサビ醤油で食べると美味い。鶏肉とのあわせ煮や煮付けも美味い。

☆料理・・・刺身風おひたし、煮付け、酢の物、酢味噌和え、吸い物、酢醤油漬け、茶碗蒸し、天ぷらなど。仙北地方では、特に梅漬けに入れる。

ムキタケ(主に黄葉~晩秋)

▲ムキタケ(10月下旬)10月下旬ともなれば、紛らわしい毒キノコ・ツキヨタケも姿を消している。ムキタケは下から見れば、ヒダは密で美しい。大型のキノコで、ブナ林の中では最も絵になるキノコだと思う。

ムキタケは倒木に折り重なるように生える。傘裏が透明感のあるホワイト色をしていれば極上品である。倒木の上にも生えるが、特に水分の多い横から下にかけて重なるように生える。その美味しいキノコを狙うのは、人間だけでなく、無数の虫たちも狙っている。虫食いかどうかは、手にとらなくとも、下から観察すれば簡単に見分けられる。

上から見ると、確かにツキヨタケに似ている。しかし、ツキヨタケのように毒々しい小鱗片はない。半円形から貝殻形で、淡い黄土色、時に緑系、紫系、灰色系と遺伝子の多様性に富む。

▲巨大なムキタケ。ムキタケは大きくなると、ビックリするほど巨大な半漏斗型になり、ゼラチン質の肉も厚くなる。キノコは、幼菌、成菌、老菌になるに従って、形も色も大きく変化する。一枚から数枚しかないキノコ図鑑だけで判別するのは極めて難しい。だから、キノコに詳しい人に現場で教えてもらうことが必須だと思う

☆採り方・・・ナタやナイフでムキタケの根元を切り取る。その際、皮がむけやすく、料理の時この表皮をむくことから「ムキタケ」の名が付いた。

熱い味噌汁や鍋物にして食べると、つるっとしていて喉を火傷することがあることから、ノドヤケドとも呼ばれている。

☆料理・・・納豆汁、シチュー、鍋物、すき焼き、トマトとナスのグラタンなど

表皮下にはゼラチン層があって、表皮はむきやすい。肉は厚く、白色で、特有のすべっこい舌ざわりと癖のないソフトな味が親しまれて、山間地方を代表するキノコである。薄塩で漬けて長期保存する。冬に取り出して納豆汁に入れると最高の味で、漬けキノコとして、山間部では必ず毎年秋に漬ける漬物の一つ。

▼ムキタケとツキヨタケの見分け方

  • 姿・形・・・ムキタケは、ツキヨタケのような毒々しさはなく大変美しいキノコ
  • 裏返すと、ヒダはかなり密で白っぽく綺麗な印象を受ける
  • 傘の表皮が簡単にむける
  • 柄の中心から半分に切ると、芯に黒いしみがない
  • 黄葉の季節になると、ツキヨタケは姿を消し、ムキタケが折り重なるように生えてくる

ツキヨタケ(毒、秋)

食用のムキタケやヒラタケ、シイタケと似るので紛らわしく、日本特産の毒キノコの中で、中毒例が最も多い。ブナなどの倒木や立ち枯れ木に群生する。

中毒症状は、嘔吐、下痢、腹痛が数日間続き、時には死にいたることもある。ブナ林のキノコ狩りでは、最も注意を要する毒キノコの筆頭である。

若いのはシイタケ、大きくなるとムキタケ、ヒラタケに似ている。しかも同じ樹に生えているからややこしい。右下の写真のとおり、縦に裂けば一目瞭然・・・紫色の染みになっているのが毒キノコだ。ムキタケが最盛期となる10月下旬は、姿を消すので安心である。

ブナ林の宝石・ナメコ(主に黄葉~晩秋)

ブナ林に生えるキノコの代表で、昔から食用キノコとして有名。写真は傘が開く前の幼菌で、市販のナメコと姿、形はほぼ似ている。傘はおびただしいほどの粘液に覆われ美しい。

ナメコの最盛期は、ブナ林の黄葉から晩秋まで約1ヶ月余りも続く。特に錦秋のフナ林を彷徨い、ナメコを採る楽しみは至福のひととき。また落葉した晩秋のブナ林は、遠くまで見通しが効き、ナメコを発見しやすい。

地方名は、ヌイド、ナメラッコ。漢字を当てると「滑子」。傘は半球形で、後に丸山形から扁平となる。表面は粘液に覆われ、湿っている時は特に著しい粘性がある。

傘が開くと、中央部が赤褐色で、周辺部は黄褐色。肉は厚く、淡黄色。ナメコは発生する木を変えながら、1ヶ月にもわたって次々と現れてくるのが大きな特徴。発生時期:10月上・中旬~11月中旬。発生場所:ブナの枯幹、倒木、切り株上に群生する。

折り重なるように生えたナメコの傘には、落葉が降り積もり、粘液をたっぷり含んだ雫が傘の周辺部から滴り落ちる。ヌメリ、色艶、造形美・・・いずれをとっても涎が出そうなほど美味しそうに見える。

▲ブナの倒木に生えたナメコの大群落(11月上旬) 「ブナ帯のキノコの王者のようなナメコは、人々の好みに合っている上に・・・もともとナメコがブナの倒木に多く発生したことを思えば、やはりブナ帯のキノコの代表は、これに尽きると言えるであろう。」(「ブナの森と生きる」北村昌美、PHP選書048)

☆採り方・・・倒木に傷をつけないよう、一つ一つナタやナイフで丁寧に切り取る

ナメコと言えば、傘の開かない栽培物の印象が強く、傘が開いたナメコは旬を過ぎたように錯覚しがちである。野生のナメコは、傘が開いたものがボリュームもあり、ナメコ狩りの本命である。

☆料理・・・ナメコ汁、納豆汁、おろし和え、三杯酢、ワサビ醤油、鍋物、麺類の具、佃煮など

▽ナメコの味噌汁・・・天然のナメコは傘の開いたナメコを使う。新鮮なうちにあっさりした味噌汁にするだけで、キノコの旨味が十分味わえる。簡単かつ美味。

▽キノコ鍋・・・山内芋の子の皮をむき、小さく切って沸騰した鍋でじっくり煮る。柔らかくなったら、比内地鶏又は豚肉、糸コン、採りたての天然ナメコ(成菌)とムキタケ、サワモダシなどをたっぷり入れて煮込む。味噌または醤油で味付けをし、仕上げにネギとセリを入れる。ブナ林のキノコは食材として一級品だけに、食材も地物の一級品にこだわりたい。

▲初冬の干しナメコ

光と風通しの良い倒木に生えたナメコは、乾燥した干しナメコのような状態となる。開いた傘は波打ち、傘の縁は乾ききってシワシワになっている。一瞬、これがナメコか・・・と疑うほど変形している。

干しナメコは、虫もつかず、腐ることもない。天然の冷蔵庫の中に長期保存しているような感じである。ヌメリを失った干しナメコを水に浸せば、ナメコ特有のヌメリは復活する。味も全く変わらない。

チャナメツムタケ(秋~晩秋)

分厚い苔とブナの落ち葉、こんがりと焼けたような見事な色艶、リズミカルな配列・・・いずれをとっても美しい。

小沢の湿り気を含んだブナなどの腐朽した倒木、落ち葉が積もった地面に生える。傘に強い粘性があり、ナメコの成菌に似ているが、傘の縁に綿毛状のりん片がついているので区別できる。

☆料理・・・肉質も厚くヌメリ気もあり、火を通すとコクのある出汁が出る。ヌメリが強く、汁物にはナメコ以上にコクのある旨味がでる。鍋物、けんちん汁、野菜との油炒め、炭火焼、味噌汁、煮物など。

シロナメツムタケ、キナメツムタケ(秋~晩秋)

腐朽の進んだミズナラの落ち枝や埋もれ木に発生する。傘は茶白色で粘性があり、ヒダは白色のち淡褐色。茎は白色でややササクレがある。

落葉が降り積もってから発生することが多く、見つけにくい。料理は、ナメコと同じ料理が合う。近縁種にキナメツムタケ(食)がある・・・形は同様で、全体的に黄色いキノコ。

クリタケ(秋~晩秋)

▲旬のクリタケ(10月上旬)
沢に転がっていた根株に群生していたクリタケ。名前のとおり、淡い栗色で、丸い傘周辺に白の繊維状の膜をつける。

方言・・・アカキノコ、クリノキモダシ、ヤマドリモダシ、キジタケ

○採り方・・・採取のコツは、崩れ易い傘には触れず、柄の根元をカッターナイフで切り取るか、根元をつまんで採る

▲ジャンボクリタケ・・・思わず株ごと採取して記念撮影

若いクリタケの裏側は白く美しい

○料理・・・クセのない風味と歯切れの良さが特徴で、良い出汁が出る
味噌汁、鍋物、煮物、炒め物、おかゆ、炊き込みご飯、フライ、中華風雑炊など
昔から乾燥して干しキノコとして貯え、冬のヤマドリ、キジの鍋に入れると一層美味い。だからヤマドリモダシ、キジタケの名で呼ぶ地方名がある。

ブナシメジ(秋~晩秋)

ブナなどの広葉樹の枯木や倒木に発生する。傘の中央部に灰褐色の大理石模様があるのが最大の特徴。傘は初め半球形から平らな山形に開く。

▲初冬の風景・・・落葉した明るい森とブナシメジ
晩秋は、芽吹く前の森の明るさに似ているが、「山笑う」ではなく「山眠る」前のあわただしさを感じる。

左の写真のように日陰に生えたものは純白色のものもある。

☆料理・・・味噌汁、天ぷら、和え物、煮物、炒め物、炊き込みご飯など、和・洋・中華何でも合う。

ヌメリツバタケモドキ

沢沿いのブナの風倒木や立枯木によく生えている。こまめに採取すれば、けっこうな量を採取できる。水分を多く含み、採るとグシャリと簡単に潰れ、素人にはいかにも不味そうに見える。しかし、熱を通すと意外なほど歯ざわりがよくなる。

☆料理・・・三杯酢や和え物、お吸い物

ヌメリスギタケ

ナメコのグループに入る食用キノコ・・・秋田ではナメコ、ナメラッコなどと呼ぶ。傘は黄褐色で、ササクレがある。茎にはツバがあり、ササクレでおおわれている。

☆料理・・・さわやかな歯触りと独特のヌラメキがある。各種汁物、和え物などどんな料理にも合う。

その他のキノコ

▲スギヒラタケ(10月)
秋田では、人気の高いキノコの代表でスギカノカと呼ばれている。2004年、スギヒラタケが原因とされる急性脳症が多数報告され、今では毒キノコの筆頭に、残念!

昔から、身近な杉林で大量に収穫でき、味も良いことから特にお年寄りに人気が高い。杉の古い切り株などに多数重なって発生する姿は美しい。表面は白色、肉は薄く、縁部は内側に巻く。裏側も白色でヒダも密。ブナハリタケと同様、茎はなく側生する

▲ブナ林に発生するアケボノサクラシメジ(9月)
ブナ林で、倒木や立ち枯れ木に発生するキノコは多いが、地上に発生するものは少ない。それだけに、列をなして生える本種を見つけると、心が躍る。

サクラシメジより大形で、全体的に白っぽく、姿、形が美しい。採取のコツは、一つ見つけたら、周辺を探すこと・・・写真のように列をなして生える。

傘は淡いピンク色で、中央がやや濃く粘性がある。茎も白いが、根元部分は黄色を帯びる。

☆料理・・・サクラシメジと同様、匂い、苦味など少しクセがある。湯がいたり、塩蔵してから調理する。酢の物、煮物、雑炊、油炒め、ホイール焼きなど。

▲チチタケ(8月中旬)
低山帯のブナやミズナラなどの広葉樹林内の地上に生える。表面は中央部がくぼみ、黄褐色から鮮やかなレンガ色。キノコに傷をつけると白い乳液を分泌するのが最大の特徴である。

東北では、ほとんど食べないが、茨城県や栃木県ではキノコ狩りの筆頭品目で人気が高い。同じキノコでも、東北と関東の食文化の違いを強く感じる。スライスして、ニンニクと野菜を一緒に油で炒めると美味しいらしい。

▲エノキタケ(ユキノシタ、晩秋~早春)
 北国の渓流では、4月になっても雪が深く、春雪をかぶって株立ちしていることから、別名「ユキノシタ」と呼ぶ。傘は茶褐色で粘性がある。冬場の優秀な食菌で、茎の歯切れが良く、味噌汁、和え物、天ぷら、鍋物など日本料理によく合う。

▲オオワライタケ(毒)
いかにも美味そうに見えるが、幻覚や震えなどの中毒症状をおこす。発生は夏~秋。傘は褐黄色~橙黄色で細かい繊維紋があり、ヒダは黄白色。根元はふくらんでいる・・・強い苦味がある。

▲ニガクリタケ(毒)
小型で大群生する毒キノコで、死亡例もある。クリタケと間違うらしいが、現場で体験すれば瞬時に判別できる。判別法は、生のままかんでみると、強い苦みがあるのですぐに区別できる。

秋田のキノコ食文化MEMO(参考文献:「聞き書 秋田の食事」農文協)

▽キノコ採り
秋田の山村では、山菜と同様、キノコも驚くほど豊富である。キノコの季節になると、今頃はどの沢に何が生えるか、直感的に分かる。夏に顔を出すトビタケ(トンビマイタケ)がキノコのはしりで、晩秋まで続く。

農作業のできない雨の日などは、大きな弁当をコダシ(背負い袋)に入れ、日に二度、三度と山に入り、キノコを蓄える 当座食べるもの、塩漬け、干しキノコなどにきちんと分ける。

▽キノコの保存
大量に採取したキノコは、長い冬に備えて、干しキノコや塩漬けにして保存する。現在は、マイタケ、サワモダシ、ナメコ、ムキタケなどは冷凍保存又は缶詰加工が一般的である。

▽キノコの塩漬け・・・キノコを湯がき、ザルに上げて水を切る。冷めたら一斗樽に塩を少し多めにふって漬け込む。一回漬けるごとに熊笹を並べて仕切り、これを繰り返して樽一杯にする。最後に重石をして、蓋が塩水で隠れるほど水を入れる。これは空気を遮ってキノコの腐敗を防ぐ効果がある

※キノコ料理
保存キノコは、水に浸したり、塩出ししてからキノコ料理を作る。客がくれば、必ず一品はキノコ料理を添える。

塩出しキノコは、大根おろしや納豆汁の具、煮しめ、うさぎ汁に入れたりする。干しキノコは、吸い物やキノコご飯、鍋物(だまこもち、きりたんぽ、いものこ汁)、煮付け、正月膳、祝本膳などに用いる。

  • 鹿角地方の肉鍋・・・寒い夕食のご馳走の主役は肉鍋。大鍋に山から獲ったウサギ、山鳥などの肉をたっぷり入れ、寒干し大根、ゼンマイ、ネギ、キノコなども豊富に入れ、味噌で味つけする。この鍋物は、寒さを吹き飛ばし、体が芯から温まる。
  • 納豆汁・・・栄養価が高く、寒い冬を代表する食べ物。雑きのこ(サワモダシ、ナメコ、シイタケ)、ワラビ、ゼンマイ、油揚げ、木綿豆腐など、山菜・キノコをたくさん入れた味噌汁に、すり鉢ですった納豆を入れ、ひと煮たちさせ、ネギの細切りを入れる。
  • きりたんぽ鍋(県北地方)・・・土鍋に鶏ガラでとった出汁を入れ、比内地鶏、鶏もつ、マイタケ、ゴボウを入れ醤油、酒、みりんを加えて煮る。ひと一煮たちしたら、きりたんぽ、ネギを入れ、最後に、せりを入れる。
  • いものこ汁(県南地方)・・・里芋は食べやすい大きさに切り、鶏肉は厚めに大きく切る。鍋に里芋を入れて煮る・・・半煮えになったら鶏肉を入れる。柔らかくなったら溶いた味噌を加えて味をつける。雑キノコ(マイタケ、シメジ類、サワモダシ、シイタケなど3種程度)。ネギ、油揚げ、糸コンニャクを入れ、一煮立ちさせ、酒をまわし入れ、セリをはなして火を止める。鮭の水煮(缶詰)を入れる場合は、煮上がる直前に入れる。

ブナの森では、「死」が新たな「生」を生むドラマが繰り返される。森を支配していた巨木が倒れると、ポッカリ穴の開いた天空から光が林床に降り注ぐ。親の枯れるのを待っていた稚樹は、一斉に勢いを増す。

一方、倒れてから3年ほど経つと朽ち始めるが、美味しい「木の子」たちが群がって生えてくる。特に斜面に伏した幹から、籠に入りきれないほどのナメコの群生は、素晴らしい。やがて菌類は、長い年月をかけて倒木を分解、全て土に戻し養分を補給し続ける。

ブナ帯の美味しいキノコは、「母なるブナ」の最後を飾る贈り物である。

参考文献

  • 「山渓カラー名鑑 日本のきのこ」(山と渓谷社) 
  • 「秋田太平山地のマイタケ」(佐々木仁八郎著、秋田中央印刷株)  生態測定調査と採取活動30年間の記録
  • 「あきた食べ物民俗誌」(太田雄治著 秋田魁新報社) 
  • 日本の食生活全集⑤「聞き書 秋田の食事」(農山漁村文化協会)
  • 「阿仁川流域の郷土料理」(モリトピア選書9、建設省東北地方建設局森吉山ダム工事事務所)
  • 「白神山地ブナ帯地域における基層文化の生態史的研究」(研究代表者・掛屋誠・弘前大学人文学部教授、平成2年3月)・・・平成元年科学研究費補助金(総合A)研究成果報告書
  • 「あきた山菜キノコの四季」(永田賢之助、秋田魁新報社)
  • 「キノコ狩りガイドブック」(伊沢正名、川嶋健市共著、永岡書店)
  • 「ブナの森と生きる」(北村昌美、PHP選書048) 
  • 「きのこの見分け方」(大海秀典他、講談社) 
  • 「ヤマケイポケットガイド15 きのこ」(小宮山勝司著、山と渓谷社)