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53故郷を慈しんで栽培するそばを製粉からそば打ちまで手がけて奥深い歴史に包まれた町の魅力を味わい深く伝えるそば屋彦三猪岡専一さん羽後町西馬音内盆踊りで全国にその名を轟かせる羽後町は、茅葺き屋根の集落が残る美しい田園風景に包まれた魅力的な町である。また、「冷やがけそば」発祥の地として、そばの食文化が綿々と受け継がれてきた。平成十六年に開店した『そば屋彦三』は、看板がないにも係わらず、老舗に負けず劣らず、多くの客で賑わう繁盛店として人気を集めている。店主の猪岡さんには、「羽後町そば栽培研究会会長」、「農業生産法人株式会社そば研代表取締役」の肩書きもある。そばの栽培と収穫、さらには乾燥、脱穀、選別、製粉、販売まで一貫して手掛けている。農山漁村にある様々な地域資源を活用し、六次産業化を実践するエキスパートでもある。米の生産調整、農家の高齢化や労力不足等から町の農地が荒れ、耕作放棄地の増加がみられていた。兼業農家の猪岡さんは、転作作物の振興を図る目的で「羽後町そば栽培研究会」を平成九年に十五人で発足。そばの栽培に取り組んできた。荒れていく農地を憂い、農村の原風景が失われてしまうという危機感が原点であった。会員は現在四百人以上、栽培面積は二百十ヘクタールに及んでいる。無農薬と自然乾燥にこだわった製法、そして生産から流通までの取り組みが評価され、高値で取引されるようになった。しかし、猪岡さんの情熱はこれに留まることはなかった。秋田ブランドのそばの品種がないことを憂いていたのである。東北農業研究センターの協力を仰ぎ、大粒の実でそば粉の青みが多い新品種「にじゆたか」の本格栽培を、全国に先駆けて羽後町で着手した。自ら製粉したそば粉を「虹なないろまいこ舞粉」とネーミング。羽後町産そば粉としてブランド化し、今年から市場に流通することになった。また、種皮が固く麹菌の付着と菌糸の生育が難しく製造が困難とされてきた“そば麹”の開発にも挑戦。完成したそば麹は、調味料としてさまざまな可能性を秘めたものになろうとしている。愛情込めて栽培したそばの実を余すことなく使いたいという、農家ならではの想いが結実した“新商品”でもある。「羽後の伝統食を再現する会」にも取り組むなど、生まれ育った故郷の再生と活力を取り戻すための努力を惜しまない、情熱溢れるアイデアマンである。