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29和光中学校の秋田学習旅行など都会の中学生に農業体験を提供し『秋田の父さん、母さん』と慕われる上町、下町と町を二分して綱を引き合う『刈和野の大綱引き』で知られる大仙市西仙北。その土川集落で稲作農家を営む阿部忍さんは、農業経験“ゼロ”の神奈川県生まれ。奥様の故郷・秋田へ平成四年に移り住み、『アイターン農産』を立ち上げた。結婚を機に、いずれは秋田に生活の基盤を置くことは決めていた。当時の農業を巡る状況は混迷を深めつつあった。コメの自由化に備えるならば、「競争力のある米を生産し、産直をしなければ農家はダメになる」と時代を見据えていた。末っ子の小学校入学を機に秋田にアイターンし、有機農法に取り組んだのである。化学肥料をなるべく使わない減農薬のコメ作りは、当時まだ珍しく、周囲からは笑われ、変人扱いされた。「いいコメを作りたい、その一心だった。農業を全く知らず、人間関係のしがらみもなかったからこそできたかもしれない」という。現在は、あきたこまち、コシヒカリ、もち米「きぬのはだ」を有機農法で栽培、流通まで個人で行なっている。平成二十一年からは、自家産米の米粉を使ったパンや餅の製造と販売に取り組み始めた。きっかけは、玉枝さんのお父さんが病気で寝たきりになったことだった。大仙市特産の無臭大豆『すずさやか』に以前から関心があり、「米粉と大豆で何か作れないか」と考えていた。大豆には、動脈硬化や骨粗鬆症の予防・改善などに効果があるといわれているイソフラボンが含まれ、食物繊維も豊富だ。「寝たきりで動けないおじいさんのために、大豆でパンを作ろう」と思い立った。試行錯誤の末に完成したのが『こ・こ・だパン』。ほのかな甘みともっちりとした食感が特徴だ。また、都会の中学生などの農業体験受け入れも積極的に行ってきた。「体験した中学生からの手紙や写真を見ると、田舎だからこその魅力を再認識させられる。食の大切さはもちろんのこと、みんなで協力しながら作業を成し遂げることで得られるたくさんの想いを、自分の手と肌で感じ取ってほしい」と願っている。県外から秋田に来た人だからこそ見えてくる「秋田の魅力」を、秋田に生まれ育った私達が、教えられている気がしてならない。アイターン農産阿部忍さん玉枝さん大仙市