内陸線沿線地域エコミュージアム会議モニターツアー
 ~地域に存在する文化、それを守り続けてきた人びと~

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 内陸線に乗り、車窓からの景色を望む

 2011年2月14日~16日、内陸線の沿線地域に住んでいる人・文化・歴史・地域行事などの見どころを、まるごと「博物館」になぞらえ紹介し、集落を巡る旅内陸線沿線地域エコミュージアム会議モニターツアーが、3日間の行程で行われた
 
15・16日のみ参加させていただいた中で写し取った、
冬の内陸線沿線集落の風景とともに、地域に存在する文化や、それを守り続けてきた人を見つめ直そうと思う。

~2日目~

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 中里駅には、朴の木で作ったカンデッコの鍬があった。「カンデッコあげ」は中里塞之神の小正月行事で、無形民俗文化財のうちのひとつ
 
この先の標高360mの十二段峠にある
全長5697mの十二段トンネルは、県内で一番長いとされており、数々の言い伝えがあるらしい。

 

 早朝電車に乗るのは、学生時代以来
 
モスグリーンのペイントもローカルな雰囲気に似合う
偶然、秋田新幹線 「こまち」がホームに入ってきた新幹線に乗り込む人は、その雰囲気までもせわしない内陸線のゆったり、どっしりした佇まいとの対比が面白かった

 今回のモニターツアーには、東京からやってきたご夫婦、外国人、環境デザイナー、大学教授など、様々な分野から10名程の参加。

 

 「これまで、内陸線に乗ったことがありますか?」
 車内アテンダントの問いに、
東京から来たモニター客達はかぶりを振った
 通勤・通学など、
日常的に足として使用している乗客や、一部の鉄道専門家以外で、内陸線を「知っている・乗ったことがある」という人は、どのくらい存在するのだろう

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 十二段峠で分水し、打当川に架かる吊り橋のあたりで川の流れが変わる。よく見ると大きな足跡がある。雪深いので、人ではないだろう。

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 ちょうど「あきた鹿角国体2011」の開催時期に合わせた特別車両とすれ違った。

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 ここより散策。 

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 比立内駅。

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 レールの跡が残り、通り道を阻む雪はあまりない。まるでそこだけ除雪したかのよう。

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 比立内森林事務所。かつてこのあたり一帯は、林業が町を支えていた。

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 無表情な曇り空に存在感を強調するかのような山、ひび割れたアスファルトに盛られた滑らかな雪
 
それぞれのコントラストが面白い。

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 照り返した雪のせいで目がくらむ
 
今年積もった雪の歴史が、幾重にも重なった層からも想像できる。 

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 キツネとおぼしき足跡が辿った先を見つめ、可愛い森の住民が出てこないかと期待する参加者。

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 一部分解けた雪から、くねりと曲がった「たろんぺ」(つらら)が顔を出す。

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 除雪車が珍しいと、盛んに写真を撮っていた参加者に便乗して一枚
 
こんな光景も、雪が降らない地域の人にとっては見どころ。

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 道すがらにある商店では、カンジキを販売
 
その存在自体を知らないらしい参加者に「スノーシューのことですよ」と説明したら、納得していただいた。

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 会話が途絶えることを知らない一行は、道の駅へと向かう。あと400mほどで到着。

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 「道の駅あに・マタギの里」では、農林産物の直売のほか、食事も可能。

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 「クロモジ茶」という、珍しい茶葉があった
 
鼻の奥をくすぐる、甘い香りが特徴。

牛滝橋

 牛滝橋から、新牛滝橋を望む
 
澄み切った渓流の水面が、こんこんと流れているのがおわかりだろうか。

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 岩肌に粘着しているかのように見える、しがっこ。

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 小路は綺麗に除雪されており、歩き易い。

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 緩やかで安全な迂回路はあるのだが、あえて登りたいらしい。子どものような冒険心も、時には必要。

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 本来、松橋旅館の正門。裏手にバイパスが出来てしまい、そちらが表玄関へと姿を変えた。

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 比立内唯一の精肉店。

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 ショーケースには、特産の馬肉や熊肉などが並ぶ。

 ふと、写真を撮っていて閃いた。撮影が可能な窓として、ひとつの窓を思いきり磨き、装飾して『デコ窓』にしてはどうだろう?親子連れや撮り鉄、カメラ女子などに人気が出るのではないだろうか…

 
日常の喧騒を忘れ、車窓から飛び込むような白銀の景色をゆっくり眺めていると、人が古来より授かった能力が思い起こされるような気がする。それは、「広大な景色を眺めていると、人間というものがちっぽけに思える」という、参加者の言葉にも表れていると思う。単なるリラックスだけでなく大自然の摂理を感じ、地球上に生きる人間としての自覚を知ることがいずれ、心の豊かさへと通じていくのではなかろうか。

 そういう視点でもう一度周辺を見渡すと、その土地に存在するもの全てが地域資源と思える。今回のツアーを参考に、ある程度定められたルートを歩いてみてもいいし、自由な散策の手助けとなってくれる(設置している駅舎がある)「地域フットパス」という散策マップを活用してみてもいいかもしれない。車の運転を忘れた電車と徒歩での散策の旅が、一生の思い出に残ることになるだろう。

 真心も一緒にいただく昼食

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農家民宿「泰山堂」の藤井けい子さんが腕を奮った昼食や、地元の方からの心遣いに感謝。

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 歴史のある松橋旅館にて、マタギ語りを聞く手筈になっている。

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 先代のマタギが狩猟で獲った熊のはく製に驚き、思わず本物かどうかを触って確認。

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 竹の弁当箱に入った懐石風おにぎり昼食
 
空になったら、右側の容器で蓋ができる。

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 ゼンマイの煮つけやワラビの漬しなど、松橋悦治氏より差し入れがあった。

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松橋吉太郎氏。

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写真は松橋旅館の15代当主。

 この数日前、松橋旅館の第十四世マタギである松橋時幸氏が突然お亡くなりになられ、この時点で忌中であった(実は、このマタギ語りも当初、比立内集落のマタギということで、時幸氏を予定していた)。そういう中であっても、ご家族の旅館業としての毅然とした客対応には、思わず胸がしめつけらる気持ちになった。

 命ある人間であれば、いつかこの世界から離れる時が必ず来る。それは万人が避けられない事実。そして長く続いた文化も、現代人の生活に直接関わりが少なくなっていくと、おのずと廃れていってしまう。それも時代の流れとしては仕方のないことなのかもしれない。しかしそれにより、ひとつの尊い歴史がひっそりと閉じられてしまったことを忘れてはならない。

 今回「マタギ語り」をしていただいた大阿仁猟友会・打当マタギの松橋吉太郎氏により、マタギの文化を通じて「失われつつある地域の宝」の存在を再度考えさせられた。本当に貴重で有意義な時間だったと思う。

 「マタギは、やめらえねぇ。今は(規制が)厳しいども。獲っていってば(良いならば)、なんぼでも獲りで。折角獲ったの離すなんて、考えらぇねぇな…」と、ため息交じりにこぼした吉太郎氏の言葉が忘れられない 

※マタギ文化については、「孤高の民・マタギ」「第20回マタギサミットin阿仁参加報告」等でより詳しく触れているので、ぜひご覧いただきたい。

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 東京からお越しのご夫妻や大学教授など、一部のメンバーがお別れ。藤井けい子さんらと共に、再会を願いつつ見送る。

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 農家民宿「泰山堂」「星雪館」、それぞれグループに分かれ宿泊。よどぎみは「西木温泉ふれあいプラザクリオン」で入浴後、泰山堂に宿泊となった。

 農家民宿での語らいのひととき

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泰山堂での、夕食の一場面。初対面同士が、一つの食卓を囲むのは、農家民宿ならではの光景。

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泰山堂の入り口

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泰山堂正面

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 オーナーの藤井けい子さん(写真右)。

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みんなで乾杯!

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 農家の食事を再現しつつも、泰山堂ならではのアレンジがきいた無国籍勝手料理。

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 きりたんぽやがっこなどが上がった二の膳も、参加者らを喜ばせた。

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 集落をあげて開催する「どんど焼き」や、安楽寺の住職さんの読経なども聞いてみたかったのだが、1日目に参加することができず、非常に残念であった。しかし、私以外の参加者が、それぞれのシーンを熱っぽく語ってくれることで想像出来、それだけ参加者の心に強く響くような感動と発見があったのだと思う。
 
そして、心の豊かさという点では、農家民宿の宿泊は理にかなっていると思う。泰山堂の宿泊は自分としても初めてだったが、とても快適であった。さらに、
ご夫婦のお話がゆっくり聞けたことに参加者全員満足し、大きな収穫となったようだ。

~3日目~

 大自然の恵みを肌で感じる

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 冬の農業体験は、泰山堂の近くにある「農事組合法人 サンファーム西木」にて、雪の下からキャベツを掘り起こし収穫したものを使って昼食作りとなった。

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 畑に出る前に、まずは腹ごしらえの朝ごはん

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 星雪館に泊まっていたメンバーも泰山堂に集う。

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 囲炉裏であぶった干し餅を、おやつ代わりに持って。

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 藤井さんが、スコップを用意してくれた。

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 地元の人は手慣れた様子で雪を掘り起こす。

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 まるで雪寄せ協力隊。

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 雪の中から野菜を掘り起こすという冬の農作業は、積雪量の少ない地域の人や外国人にとっては想定外だったらしく、非常に新鮮に映ったようだ
 
そして帰りの足が新幹線にもかかわらず、「東京に持って帰る」と言い、相当の重さのキャベツをビニール袋に詰めていった。

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 アダムさんとよどぎみは、軽トラに乗って泰山堂へ。他の参加者は、歩いて向かう。

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 こめっこ工房「輝楽里」の、米粉を使用した鯛焼きをいただくもっちりとしていて小腹が満たされ、満足。

 雪の下から野菜を掘り起こす農業体験は、「農家民宿ならではで良かった」という声があった。その一方で、寒空の下ほぼ雪かきという体験内容を知らずに来た別の客は、農家民宿には「泊まるだけでも充分」と言っていた。温かい地方から来た人を受け入れる場合、農作業体験と、冬でも楽しい体験ができるよう温かい室内で体験できること、どちらか選んでもらうのがいいかもしれない。

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 皆で協力して昼食作り。

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 焼きそばと、お好み焼き作り。

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 あっという間に別れの時がきた。恒例の一本締め。

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 泰山堂を後にして、付近を散策。

 東北地方は農業地帯で、山・川・田といった景色はどこにでも溢れている。そして冬場は特に、おおよそ似たような雪景色が広がる。そのような中で、「ここでしか見れないもの」という地域性をアピールすることは非常に難しいと思う。けれども、「こういう見方をするともっと魅力が増すのでは?」という独自の紹介は出来ると思う。スポット案内冊子などの仕掛けがあれば訪れた人々はおのずと注目するだろうし、ビューポイントの味のある手描き看板などは「場所さえ分かれば次の駅で下車したい!」と思ってもらえるのではないか
 
そこに住む人々が地域に誇りを持って宣伝すれば、例えどんな景色であっても、それは地元の人のお墨付きとなり、地域全体が魅力的な場所となる。外部の人には気付かない、何気ない風景に特別感が生まれる。冬の東北の
寒そうなイメージも、素朴で優しい人々の出迎えにより、それ以上の「暖かさ」を感じてもらえるような気がする

 先日観た映画「ハナばあちゃん!!(@おおだて映像計画)でも、内陸線の電車内の様子が描かれていた。ボックス席では、人と人との笑顔があり、会話があった。そのシーンが浮かんでは、このモニターツアーの時の情景とダブる。どこからともなく来た人々を迎い入れ、それぞれの目的地へと運んで行く――郷愁を感じるローカル線は、そこに住む人々の心の豊かさを映した鏡のようだと思った。 

 

県央地区現地特派員 よどぎみ