秋田県民には言わずと知れた、神の魚・鰰。
以前、こちらのブログで「男鹿半島・冬の味覚!~ハタハタ番屋が期間限定で復活~」や、神の魚・鰰「秋田ハタハタ」でお伝えしましたとおり、昨年末は男鹿のハタハタ取材に奔走いたしました。
ふと、自宅の冷凍庫にはまだ冷凍したハタハタ(雄)があることを思い出し、再度ハタハタに想いを巡らせたよどぎみ。
年も明けてしまいましたが、ここで2010年度のハタハタ概況を振り返り。農業も漁業も、決して一過性のものではなく、今後も永く続いていく(続けていく)ものですから・・・。
「つくって知る、しょつる。」
~ハタハタしょっつる講習会~での考察(男鹿市船川金川・かねがわ畑にて)
水道の蛇口から伸びたホースの先に、山盛り積まれた大量のハタハタと、水を張ったタライ。防寒具を着た上に前掛けをし、この大量の相手を前に怯むことなく対峙する。作業の要領を見据えた表情で、ハタハタの頭と内臓を落とし、桶に滑らせていく。最後の一匹を削ぐと同時に、ザルから落ちてしまった何匹かのハタハタを掴み、タライの水面を目がけ、ザバっと放り込む――。
男鹿市内では冬の風物詩ともなっている、「神の魚・ハタハタ」を捌く光景。
獲れたてで新鮮なハタハタといえど、家の中では移り香が気になるため、各家庭では玄関など戸外での作業となるのです。
これなしでは年を越せない、という程、男鹿市民しいては秋田県民にとって生活と切り離せない魚・ハタハタ。そのハタハタに塩を混ぜ、熟成させた魚醤調味料「しょっつる」というものがあるのをご存知でしょうか。
このしょっつるをもっと広く知ってもらうには、自分自身でしょっつるを作ってもらい、もっと気軽で身近な調味料として使ってもらうことが必要――そんなコンセプトで行われた「ハタハタしょっつる講習会」。
会場は男鹿市船川港にあるかねがわ畑、主催はNPO法人あきた地域資源ネットワーク。具体的な作業の進行・指導をしてくださったのは、「かねがわ畑」という直売所をはじめ、男鹿半島の観光案内、昔語りの出前口演などを行っている、「男鹿半島案内ボランティア」の会のお母さん方です。
夏井眞智子事務局長が先に立ち、男鹿市船川金川(かねがわ)にお住まいのお母さん方に声をかけ、前回の講習が好評を博し今年で2年目。
中には、東京や大阪など遠方からお越しの参加者もいらっしゃいます。
船川漁港で夕べあがったばかりの、獲れたてハタハタを使ってのしょっつる作り。手順は、以下のようにすすめました。
★手順(匂いが分散する屋外で行うことをお勧めします)
生のハタハタ、650キログラムの頭と内臓を切り落とす。
3回に分けて水を取り換えながら洗う。
ぬめりを取ったら、水切りをする。
5キログラムずつ小分けにしたハタハタに、25パーセントの塩(1.25キログラム)を混ぜ、漬け込む(麹を入れる方もいます。入れると黒く、香りも変わります)。
1キログラム程の小石で重しをし、ビニールで覆う。
3年間、冷暗所(日の当らないところ)に置き、寝かす。
※途中、開けたりかきまぜたりせず、放置する。
★以下は、3年後の作業
焦げがつかないよう数回かき混ぜながら煮る(七輪、練炭火鉢が望ましいが、カセット卓上コンロや反射式ストーブなどでも可)。
2~3枚の木綿や晒をザルに被せ、2~3回ほど濾(こ)す。
約3リットルのしょっつるが出来るので、ビン詰めして保存する。
東京から参加で、今朝方、夜行バスでお越しの本所稚佳江さんは、「知人の結婚式でたまたま、主催の方と知り合い、このイベントを紹介されました。話をしながら同じ作業をしていくなかで、人とのつながりを感じられるって、いいですね。今では珍しくなってしまった魚醤ですが、私はマイしょっつるを持ちたいと思ってます(笑)」とお話してくださいました。
秋田県のみならず日本各地、世界各地では、古くから人々は魚醤を生活に役立ててきました。石川のいしる、ベトナムのニョクマムなど、様々な魚醤があります。
主催のNPO法人あきた地域資源ネットワークの鐙さんは、「もともとは、各家庭で普通に作られてきた“郷土食”ならぬ“郷土調味料”。かつて数百軒あったという県内のハタハタしょっつる会社も、ここ15年ほどで激減。県内でも岩舘・八森に2件、雄物川に2件、男鹿に至っては1件しかなく、その消費も200トンから30トン以下にまで落ち込んでいる。今まさにしょっつるは、大変危機的な状況にあるのです」と説明。
さらに鐙氏は、「秋田県の食文化の消費を増やすには、その沈黙を続けている底辺の部分を拡大する必要があると思う。」とコメント(写真左下)。
人々は、自分に合ったしょっつるを自らが作り、使い続けてきた。ひとことにしょっつるといっても、その味は各家庭ごとに実に様々なもので、時に購入することがあっても、会社による多種多様な味の違いを選び、使い続けて来たというのです。
それを、「しょっつるはそもそも、買うものではなく作るもの」という、独自のハタハタ論を展開し、今回のイベントを開催するに至ったといいます。
ハタハタに関する講習では、秋田県立大生物資源科学部の杉山秀樹客員教授(写真右上)によるハタハタにまつわる講習会が行われ、「雷鳴轟き、波がはたはためく頃に獲れることから、海の神様である波多多神がやってきたと。そこからハタハタと呼ばれるようになった」と説明、会場内からは納得の声があがりました。
なお、このしょっつる作り講習会は一度きりではなく、今後毎年開催される予定です。
そして3年後には、寝かしたしょっつるを精製する作業が待っています。つまり毎年、人と人との縁が切れ間なく続いていくことになります。
これは、「ハタハタ的グリーン・ツーリズム」?いずれ、農村だけでなく漁村での新しい取り組みが、今後の秋田県と他県での双方向交流が生まれることは確かです。
今回参加した方々との、3年後の再会を楽しみに待ちつつ、この「しょっつる」をつくるため、毎年各地域から男鹿に人々が集結し、それが秋田を元気にするための一端となることを願っています。
県央地区現地特派員 よどぎみ。
2011年1月18日18:50 | 県央情報 | Trackbacks (0)